紫音、ニヤケが止まらない
そんな安藤家で、千堂アリシアは、
「良純さんからはどのようにプロポーズされたのですか?」
とアリシアが尋ねると、
「え~? 恥ずかしいなあ……♡」
やはりくねくねと不規則に体を揺らしくねらせたりもした。それがまた幸せそうでとても参考になる。
さらに紫音は、顔をキラキラと輝かせて、
「実はどれがプロポーズの言葉だったのかはよく分かんなくてさ。婚約指輪を渡された時に言ってくれたのは、『俺とこれからもずっと家族でいてほしい』ってのだったんだけど、私としては一番刺さったのは、やっぱり、『紫音と一緒にいる時が一番ホッとする』だったんだよね。それが決め手かな」
耳まで真っ赤にしながら両手で頬を抑えつつニヤケが止まらない様子で言った。これがまた見ている方が恥ずかしくなるほどのデレデレぶりで。
「は~、熱い熱い!」
一緒に聞いていた桃香も手で顔を扇ぐ仕草を見せたりした。
そういう紫音の様子に反感すら覚える者もいるだろう。妬ましく思う者もいるだろう。けれどそうやって、
『妬ましいほどに感情を揺さぶってきて』
こそ、
<幸せそうな姿>
であるとも言えるのかもしれない。さらりと受け流されてしまうようなそれではむしろ『空々しい』となってしまうだろうか。
これについてアリシアは、
『人の中には他者の幸せを見せ付けられると憤りさえ覚える方もいらっしゃいます。けれどそれは、そう感じてしまう方々について私達ロボットが適切なフォローをする必要があるというだけであって、『他人の幸せを見せ付けられることは苦痛だから見せるな!』という意見に合わせることが重要なわけではないのでしょうね』
そう考えながらタラントゥリバヤのことも思い出していた。不幸な境遇にあったことで、
『ロボットと結婚した友人の幸せそうな姿に耐えられなくなったがゆえに凶行に及んでしまった可能性もあるのではないか?』
と、感じたりもした。
無論、その辺りの心理についてはタラントゥリバヤ本人にしか分からないことだろう。あくまでロボットを憎んでいたことで、ロボットと<結婚>した友人のことを<裏切者>だと感じてしまっただけかもしれない。
しかし同時に、人間の心理というものは、一つの考え方感じ方で構成されるものでないこともすでに明らかになっている。複数の異なる思考や感情が混沌と渦巻いてそれゆえに正常な判断ができなくなることがあるのも分かっているのだ。
けれど、だからといって不幸を感じている者に基準を合わせるのもおかしな話ではないだろうか。
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