マリアン2118-HHE、安藤家での評価
マリアン2118-HHEは、過剰とも言える品質を持ち価格が高騰し続けるアリシアシリーズに対する一種の<アンチテーゼ>でもあった。
人間以上にてきぱきと作業を正確に行えるだけの性能を追求したことで機体に負荷が掛かり、その負荷に耐えられる強度を持たせるために高価な新素材を惜しみなく採用したこともあり、アリシアシリーズは新モデルが出るたびに価格が十パーセント以上高くなっていったという。
もっとも、それは他のメーカーのメイトギアも同様であったが。
特に、メイトギア市場ではトップ3と言われる大手メーカーが、互いに煽るように性能を競い合い、結果、他のメーカーもそれに追随するように性能を上げて価格も上げていった。
正直なところ、それではいつか破綻するだろうとは言われていた。だから、
『メイトギアはこのくらいでもいいのでは?』
と、ユーザーへの提案という意味も込められていた。けれど実際のユーザーの反応は冷ややかだったということだ。
とは言え、他のメーカーもさすがに過熱していたことを反省し、性能向上よりも信頼性の向上を目指し価格の上昇も三パーセント以下に抑えられているのが現行モデルであった。こうして各メーカーが足並みを揃えたのは、トップ3が軒並みそういう路線に舵を切ったことがあったのだが、タイミングよく三社がそうなったという裏には、秘密裏に協議を重ねていたからという噂も、まことしやかに囁かされてはいる。
さりとて、極端な価格の高騰はユーザーにとっても必ずしも好ましいものではなかったため、おおむね好意的には捉えられているようだ。それもあってか、<公正取引監査省>(火星における公正取引委員会のような組織)からも、
『公正な取引を心掛けるように』
とのアナウンスはあったものの具体的な動きはないという。これが<価格の吊り上げ>であったなら厳しく対処されたかもしれないが、過剰な競争を抑制する方向であればさすがに煩くは言われなかったようだ。
その流れもあってか、一部にはマリアン2118-HHEを再評価する者達もちらほら出ているらしい。『安すぎて品質を疑われた』という点については、発売から十五年以上経っているというのに目立った不具合の報告がないということでただの思い込みに過ぎなかったのだとも言われている。
実際、安藤家でも、マリアン2118-HHEに対して何の不満もなかった。求められている役目は確実に果たしてくれる。せわしなく動き回るよりもこのくらいがちょうどよかった。とても安心できた。安藤家にはとても合っていたのだろう。
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