マリアン2189-MAW、安藤家の支え

そんなマリアン2118-HHEが稼働している安藤家は、とてもあたたかかった。いささかおっとりした印象のマリアン2118-HHEの動きでも気にならない程度には穏やかで余裕があった。


いくらJAPAN-2ジャパンセカンドの職員として働いている限りは最低限の保障があるとはいえ、遺族年金もあるとはいえ、夫を戦争で亡くし、友人の忘れ形見を引き取って女手一つで我が子と合わせて育てていくのは楽ではなかっただろう。


ただ、そんな安藤家にも、強い味方がいた。それは、第三次火星大戦が勃発する直前に販売が開始されたマリアン2189-MAW(メイド・オブ・オール・ワーク)というメイトギアだった。


マリアン2189-MAWは、大戦後に発売されたアリシア2305-HHP(ホームヘルパー・プロフェッショナル)のコンセプトの基になった、当時では最高グレードのメイトギアで、<家事><炊事><育児のサポート><高齢者の介護>のすべてを高度にこなす機種だった。当時から戦術自衛軍の任務で家を空けることの多かった夫が、桃香のためにと奮発して購入してくれたものである。夫は戦闘で亡くなってしまったが、夫が残してくれたマリアン2189-MAWは桃香を支え、紫音しおんと良純の心の支えにもなってくれたのだ。


父親を亡くした紫音が悪夢を見て夜中に泣き出しても桃香と共に柔和に接してくれて、仕事がある桃香には休むように促してくれて、紫音が安心して眠れるようにずっと傍にいてくれた。


両親を亡くした良純に対しても、彼のやり場のない憤りを桃香の代わりに受け止めてくれて、やはり桃香と共に彼の存在そのものを受け入れてくれた。


正直なところ、マリアン2189-MAWがいてくれたから桃香も正気を保っていられたというのもあるだろう。そうだ。子供達だけでなく、桃香自身も当然のこととしてマリアン2189-MAWに支えられていたのである。


そのマリアン2189-MAWも、大戦後の急激なシステムの更新に対応できなくなってしまったことでレガシー化が進み、本来の機能を発揮できなくなったがゆえに、マリアン2118-HHEを新たに購入。データのすべてを移し替えて再び安藤家で働くことになったのだった。


ただし、マリアン2189-MAWとマリアン2118-HHEでは機能に差があり過ぎたことで、本来のマリアン2189-MAWを完全に再現はできていない。いないが、この時点ではもう成人していた紫音と良純にはマリアン2189-MAWが行っていたほどのサポートはすでに必要なくなっていて、マリアン2118-HHEでも問題なかったというのもあったのだった。


なにより、自分達にとっては家族も同然だったマリアン2189-MAWと同じ名を持つ機種だからこそ選んだというのも事実である。


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