千堂アリシア、端役を務める

アリシアは、現在のこの世界においては唯一無二の存在であるとはいえ、だからといって何もかもが彼女を頼って運用されているわけじゃない。


むしろ、千堂京一せんどうけいいちを守ってゲリラと戦ったり、<クイーン・オブ・マーズ号事件>でテロリストと戦ったりなどということが本来は有り得ない話だったのだ。それは、<要人警護仕様のメイトギア>の役目ではない。要人警護仕様のメイトギアの役目は、


<警護対象をテロ行為から身を挺して守ること>


でしかない。最悪、その一回で機体がダメになることがあったとしてもその一回を凌ぐのが役目なのだ。


だから千堂も、彼女にしかできないことであったり、魔鱗マリン2341-DSEの一件であったり、明帆野あけぼのでの一件であったりと、彼女が適任だと判断した時には協力も頼むものの、彼女でなくてもできることについてまで任せたりはしない。今回はまさにそれだっただろう。彼女はただ一介の<JAPAN-2ジャパンセカンドの職員>として推移を見守るしかなかった。


この世界は決して、千堂アリシア一人に依存して彼女にただ守られているわけではないのだ。


友利ともり良純りょうじゅんやその上司や同僚らが、今回はいわば<主役>となって動く舞台であり、アリシアは<端役>でしかなかった。




良純らは社用ジェットでアルビオンへと向かい、現地入りする。同時に、千堂ら役員クラスの人間達も続々現地入りした。現場でそれぞれ判断が必要になった場合に備えてというのもある。また、敢えて一機の社用ジェットに乗るのではなくて分散して移動した。万が一のテロに備えてというのもある。一機に揃って乗っていてはそのジェットが攻撃されたらそれこそ<一網打尽>になってしまうからだ。


元々なるべくそうするようにはされていたが、新良賀あらがによるクーデターの際に実際に千堂が乗るプライベートジェットが撃墜されたという事件以降、さらに徹底されている。


また、<役員>だからといって役員室でただふんぞり返っているような人材は必要とされていない。指揮者は後方から指示を出す者であるのは事実ではありつつも、必要とあれば現場に赴くフットワークの軽さも必要とされるのだ。


リモートトラベルのように現地のメイトギアを利用するという方法もあるとはいえ、やはり最後は人間同士が顔を合わせて互いの腹を見せ合うことが必要なことも、今なおあるのも事実だった。だから千堂がGLAN-AFRICAグランアフリカやニューオクラホマに出向いて各都市のVIPらと直接折衝したのである。


もちろん今回も、サポートとしてメイトギアは連れている。データを呼び出したり状況をまとめるのは高度なAIを搭載したロボットの得意とするところだ。だが、それでも、なのである。


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