JAPAN-2、責任の所在

この時代、<まともな企業>で製造されたものであればネジ一本までも目に見えない刻印がされていて、少なくともロット単位で流通は管理されており、どこにどのロットが納入されたのかは追跡も容易だった。だからその分の手間は省かれコストもかからないものの、実際にその品物が使われている可能性のある物品を凍結したり回収したりとなると損害やコストは膨大なものになる。だからこそ迅速さが求められる。


これは、小さな町工場や商店レベルの部署についてもだ。


何度も言うように、JAPAN-2ジャパンセカンド内の企業のほとんどはあくまで<JAPAN-2ジャパンセカンドの一部署>であり、システム上で繋がっている。また、普段は独立した企業のように運営されていても非常時の命令系統は完全に繋がっており、いちいち<協議>などは行われない。代わりに、そこで生じた<損失>についてはJAPAN-2ジャパンセカンドのそれとして計上されるので、個人が負担することもない。だからそういう意味では安心できた。


特に今回のような事例では、知らずに当該部品を使った機器を導入したとなれば当然、現場に責任はない。ゆえにその損害の責任を負わされることもないのだ。休業することになってもその間の給与はすべて保障される。


が、その損失や損害はJAPAN-2ジャパンセカンドとして負担することになるので、これまた当然のこととしてJAPAN-2ジャパンセカンドそのものが倒れるようなことがあればすべてが一緒に倒れるというリスクも含んだものであるが。


とは言え、すでにJAPAN-2ジャパンセカンドの存在自体が、火星のみならず地球にも大きな影響を与えるようになっているので、万が一にも倒れるようなことがあれば、それこそ国家レベルで危機に陥るような国々もあったりするため、倒れることさえ許されないし倒れないように支援が行われるのも事実ではある。


ゆえに今回のことでJAPAN-2ジャパンセカンドそのものが倒れたりはしなくても、状況が長引けば、最悪、従業員の給与などに反映されてしまう可能性はないとは言えない。


されば暢気に構えてなどいられまい。


だから、ロボティクス部の役員である千堂京一せんどうけいいちも、事態の収拾のために動いていた。


「千堂様……」


屋敷には、千堂アリシアが一人で帰ることになる。今の彼女の立場はあくまで<一従業員>。業務として千堂の補佐をすることはあっても、今回はその手配が間に合わず、アリシアだけで屋敷に帰ることになったのだ。


が、千堂のいない屋敷に帰ったところで寂しいだけなので、


紫音しおんさん。お宅に伺ってもよろしいですか?」


端末で電話をかけ、そう申し出たのだった。


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