パン屋<アンドゥ>、素朴な品揃え
これまでにも何度も触れてきたとおり、
<
である。
ちなみに今回、白百合2139-PB(ピュア・ブライド)(仮)の姿で千堂アリシアが訪れたパン屋<アンドゥ>では、<円>で価格が表示されている。ちなみに貨幣価値については過去に何度も調整されており、二十一世紀初頭頃から大きくは変動していなかったりもする。
クロワッサン一個二百円。あんパン一個百五十円。クリームパン一個百五十円。チョココロネ一個二百五十円。
実にシンプルで素朴な、変に凝り過ぎていないパンを主力商品としているその店は、母と娘で経営されていた。
「いらっしゃいませ♡」
笑顔で出迎えてくれたのは、看板娘の<
相手がロボットであることは一目見て分かった。動きが綺麗すぎるからだ。けれど紫音は態度を変えることなく笑顔で接する。そんな彼女に、
「こんにちは、紫音さん。千堂アリシアです」
と挨拶する。と、紫音が、
「え? あ、アリシアさんですか。いつもご愛顧ありがとうございます。今日はまたお仕事ですか?」
アリシアが他の機体にリンクして訪れることは珍しくないので、紫音も事情を把握してくれていた。
「はい。今回は、『マネキンでいかに自然に振る舞えるか?』という試験を行ってます」
取り敢えず話していい範囲で事情を説明する。
「マネキン? あああの、<動くマネキン>の新商品ってことですね?」
「はい、そうです。でもこれがなかなか難しくて」
「へえ……!」
などと会話をしながらアリシアはパンをトレーに乗せていく。人間の場合だとあまり商品の前で会話をするのは憚られるものの、ロボットの場合は唾が飛んだりしないので問題なかった。
そして、
「どうですか? 私の様子は」
問い掛けるアリシアに、
「う~ん、<マネキン>ですよね。なんかこう、確かにマネキンなんです」
紫音は正直に応えてくれた。
「ですよね~」
アリシアも苦笑いで応える。頭部だけはアリシア2234-HHCのコンポーネントを流用しているので表情については千堂アリシアのそれなのだ。
と、その時、アリシアは気付いた。何気なく頬にやった紫音の左手薬指に指輪が光っていたのを。
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