エリナ・バーンズ、愛される上司

『一人の女性として千堂京一せんどうけいいちに愛されたいのに、そういう意味では望みは叶えられていない』


そんな千堂アリシアに、


『ウエディングドレスを着て喜びに溢れた花嫁を演じろ』


というのは、もはや<嫌味>にさえ思えるかもしれない。


が、そこは<仕事>と割り切らなければならないだろうし、アリシアもエリナ・バーンズも割り切れてはいた。


いたのだが……


「お疲れ様。私はこれから軽く飲みに行くけど、誰か一緒に行く?」


エリナが帰り支度をしながらそう告げると、


「行きます!」


「僕も行きます!」


「私も私も!」


十二人の部下達の内の三人が手を挙げてくれた。他の者達も決して『嫌』というわけではなく、家庭や趣味や友人との約束を優先しているだけである。


ただし、


「アリシアは付き合ってもらうわよ」


エリナは言った。それに対してアリシアも、


「はい、承知しました♡」


笑顔で応える。千堂はどうせまた会議で遅くなるのは分かっていた。それが終わるまでなら付き合えるからだ。そして付き合う必要があるとも思っていた。




「ほんっとあの朴念仁! 女の気持ちってもんを理解してないわよね!」


「そうだそうだ!」


オフィスからほど近い居酒屋で、エリナとアリシアが共にそんな風に声を上げていた。エリナの顔は真っ赤で、かなり酒が進んでいるようだ。


千堂に対する愚痴でピッチが上がってしまっているのだろう。


ちなみにこの時代、少々飲み過ぎてもアルコールの分解を促してくれる上に、アルコールが分解される際に発生する有害物質<アセトアルデヒド>を無害化する薬剤があるため、いわゆる<二日酔い>になることは少なくなっている。体質的にどうしてもそうなってしまう者もいるものの、軽減する効果はある。


ただ、その薬剤は大変に『不味い』ので、飲みたがらない者も多いとは言われている。それをエリナは我慢できる性質なので、このくらいなら大丈夫なのだ。


エリナの部下達も、こうやって明るく発散してくれる分にはいいことだと思っていて、彼女を見守るという意味でも付き合ってくれていた。


あんな<事件>を起こしてしまったとはいえ、本質的には優秀で人柄も素晴らしい<理想の上司>であると同時に、ちょっと、


『ほっとけない』


部分もあることが改めて分かったので、こうして、都合がつく者は付き合ってくれるのだ。だから今回参加しなかった者も、都合さえつけば参加してくれたりもする。


それだけ、エリナは<愛される上司>でもあった。


そしてアリシアも、そんなエリナのことが好きなのである。


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