エリナ・バーンズ、自らに言い聞かせる
『他のをベースにすると今度はマネキンとして展示する時に姿勢が崩れてくるからねえ……』
エリナ・バーンズがそう口にしたように、関節に<遊び>を持たせた他の機種のメイトギアの場合、完全に固定できる機構を持たないこととも相まって、同じ姿勢を取り続けるとだんだんそれが崩れてくるのだ。『その都度直せばいい』と言ってしまえばそうなのだろうが、
『いちいち頻繁に姿勢を正していると、人間はその姿に<苦痛>を見出してしまう』
という習性があることが分かっている。<マネキン>を見ている分には、
『そもそも動くことのないもの』
と認識しているのでほとんどの人間は気にしないのだが、姿勢が崩れるたびにそれを正すメイトギアの場合だと、気になる人間の割合は急激に跳ねあがるのである。
これは、アパレル業界にとっても好ましいことではない。なので、
<必要とあれば動くこともできるが普段は完璧なポーズを保ち続けることができるマネキン>
こそが望まれるというわけだ。
しかし、今回の<白百合2139-PB(ピュア・ブライド)(仮)>に求められているのは、
<ウエディングドレスを着て幸せそうにしている花嫁の姿を再現し、かつ、マネキンとして展示されている時にはマネキンに徹することができる動くマネキン>
なので、その両立が難しい。
となれば、どちらかに割り切ってしまうのが最も確実で適切な判断だと言えるものの、だからといって安易に妥協しては技術の発展もないだろう。
『従来通りでいい』
のなら、なにもわざわざコストをかけて新しいものを作る必要もないわけで。
結果として従来通りのものしか用意できなかったとしても、最初から新しいことに挑戦もしないというのは、違うのかもしれない。
ゆえに、エリナ・バーンズも、難しいことは分かっていつつ、挑戦はしなければと自分に言い聞かせていた。
<事件>を起こした自分を敢えて元のポストに復帰させてくれた会社への恩返しの意味も込めて。
千堂アリシアも、彼女の意図を酌んで、努力することを決意した。彼女の力になれるのが嬉しかった。
ただ、その一方で、今回の<仕事>は、二人にとって大変に皮肉な内容ではあるのだが。
なにしろ、共に
エリナ・バーンズはそもそもそういう対象として見てもらえていないし、
千堂アリシアも、<家族>としては受け入れてもらえているものの彼女が本当に望んでいる、
『一人の女性として愛されたい』
という部分ではやはり望みは叶っていないのだから。
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