白百合2139-PB(ピュア・ブライド)(仮)、クセが強い

<白百合2139-PB(ピュア・ブライド)(仮)のクセ>


それは、とにかく動きで表情を出すのが難しいということだ。一件、滑らかに動いているように見えるもののそれは完全に決まり切った動きを毎回寸分たがわずなぞっているだけで、『完璧すぎる』のである。


<マネキン>としてなら、<ファッションショーのモデル>としてなら、それでもいいのだろう。あくまで<服>が主役であり、それを着ているマネキンやモデルが己の個性を押し出しては邪魔になるのだから。


ただ、


「もっと嬉しそうにできない?」


<白百合2139-PB(ピュア・ブライド)(仮)>の開発に当たっている第一ラボの主任であるエリナ・バーンズは、千堂アリシアがリンクしている<白百合2139-PB(ピュア・ブライド)(仮)>に対して声を掛ける。


が、アリシアとしては、


「ごめんなさい~!」


上手くやれない自分を恥じて謝るしかできなかった。さりとて、元々そういう仕様なのだから、そこをアリシアにどうにかしろというのも酷な話ではある。


「はあ……やっぱり、<WD>をベースにするのは無理があるってことかもね」


「そうですね。<WD>は各関節の<遊び>も少ないですし」


『関節の<遊び>が少ない』というのは、人間の関節はそもそも機械のように正確に毎回同じ動きができるようにはなっていない。ほんのわずかではあるがブレがあり、だからこそ<自然な動き>になる。しかし、<白百合2139-PB(ピュア・ブライド)(仮)>のベースになっている<白百合2133-WD(ホワイト・ドール)>は、関節を確実に固定できるように<遊び>を極力減らすように作られているのだ。それが動きに強い不自然さを生んでしまう。


一方、一般仕様のメイトギアの場合、動きに柔らかさや人間らしさを演出するために、関節にはある程度の<遊び>が持たされている。要人警護仕様の場合は、確実な動作が求められるのでその<遊び>も少なく、クグリに動きが読まれてしまう程度には毎回正確な動きができるものの、それでも<白百合2139-PB(ピュア・ブライド)(仮)>や<白百合2133-WD(ホワイト・ドール)>ほどはシビアでもない。そこまですると不自然になり、いわゆる、


<不気味の壁>


ができてしまうのだ。<白百合2133-WD(ホワイト・ドール)>はあくまで<マネキン>だから、<美しい動き>は求められていても<自然な動き>は要求されていなかったのである。


「でも、だからって他のをベースにすると今度はマネキンとして展示する時に姿勢が崩れてくるからねえ……」


エリナは額に指をあてて呟いたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る