千堂アリシア、黒いドレスをまとう

そうして墓参するための用意を、千堂アリシアは始めた。スカート型の外装パーツを外し、喪服をイメージした黒いドレスに着替える。


「それでは、行ってまいります」


深々と頭を下げて、千堂に先駆けて部屋を出る。エレベーターで一階に下りてロビーを通り抜け……ようとした時、彼女の聴覚センサーがコッキングレバーを操作する音を捉え、その瞬間、<危機対応モード>に切り替わった。


それと同時に、ロビーにいる人物を検索。コンマ一秒で視界に捉えられた人物については可能な限りの照会を行い、そこに、ニューオクラホマの司法長官がいることを確認。コッキングレバーを操作する音がした位置と<ニューオクラホマの司法長官>との間に立ち塞がった。


直後、自動小銃の発射音がロビーに響き、アリシアの体が銃弾を浴びる。そして彼女に遅れることコンマ一秒、他の要人警護仕様のメイトギアやレイバーギアが駆け付ける。それらは皆、彼女と同時に動き始めていたが、たまたま一番近かったアリシアが間に合ったということである。


「くそっ!! なんで!?」


自動小銃を手にした若い男が叫んだ。ニューオクラホマの司法長官を警護していたロボットが間に合わない絶好のタイミングで引き金を引いたはずだったのに、たまたま通りがかったメイトギアが要人警護仕様だったなど、何と運の悪い。


いや、狙われた側としては運が良かったのだろう。


テロだった。ニューオクラホマの司法長官を狙った。使われた自動小銃は、AIを搭載していない旧式のそれだった。だから検出できなかった。コッキングレバーを引くまでは。


「くっそおおおお!」


すぐさまホテルのガードロボットも駆けつけ、テロリストを拘束する。<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>の残党だった。仲間が逮捕されたことに対する報復としてニューオクラホマの司法長官がプライベートで訪れた先で暗殺を謀ったのである。


しかしそれは千堂アリシアが通りがかったことで失敗に終わった。銃弾はすべて彼女の体で受け止められて、流れ弾さえ生じなかった。ただ、その代わり、彼女が喪服として選んだ黒いドレスは見るも無残な状態になってしまったが。


とは言え、人間さえ無事であれば彼女にとっては些末な問題だった。ドレスはまた買えばいい。だが、失われた命は決して戻らないし、もちろん買い替えることもできない。


それよりは、この後はきっと警察の事情聴取などに時間を割かれることになるだろうし、タラントゥリバヤの墓に参るのは、警察に協力し、その上でドレスを新調してからということになってしまったのが惜しかったのだった。


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