千堂アリシア、墓参に向かう
彼女のためだけに長期休暇を浪費するとなれば、千堂アリシアは気が引けてしまうだろう。だから
「ありがとうございます、千堂様」
「いい。私にも目的があるしな」
そうやり取りしつつ、ハイヤーで空港へと向かった。完全な仕事ならヘリで一直線なのだが、今回はあくまで長期休暇を利用した<根回し>に過ぎないため、プライベートでの渡航となる。
それでも、空港からは千堂の自家用ジェットで向かうことになるが。
かつて撃墜された自家用ジェットの保険金も使い調達したそれは、最新のロボット機でもあった。完全自動操縦が可能で、人間のスタッフは操縦士と副操縦士のみであり、キャビンアテンダントは三機のメイトギアが担当する。
なお、以前の自家用ジェットのスタッフの遺族の中には、いまだに補償について合意ができていない者もいて、かような事態に陥った時の対処の難しさが浮き彫りになったことも少なからず影響しているのだろう。
『人間に仕事を与える』
ために敢えてロボットだけでの運用はしないことも多いそれらで、必要最小限のスタッフだけにとどめるための判断だった。自動車と同じで、<運行責任者>が必要なのだ。ゆえに操縦士及び副操縦士が搭乗する。
本当は千堂自身が操縦士免許を取りたかったのだが、さすがにそのためのスケジュールが都合できず、やむを得ずこの体制になっている。
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である自分は、テロの標的にもなる。それに巻き込まれる者をなるべく減らしたかった。<
『人間の雇用を確保している』
というスタンスも見せないといけないので、<
そもそもテロが存在しなければこんな気を遣う必要もないものの、現にテロが存在する限りはそれを頭に置かないといけないし、しかし同時に、彼の立場としては人間の雇用も守らなければいけない。
この辺りはなかなかにジレンマである。
そういう面もありつつ、
「千堂様。ただいまより離陸いたします」
キャビンアテンダントとして装備されたアリシア2234-HHC(キャビンアテンダント仕様)に声を掛けられ、
「ああ、よろしく頼む」
と応えた千堂の隣で、アリシアはゆっくりと流れていく窓の外の景色を眺めていた。滑走路に向かう自家用ジェットの中から。
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