カルクラ、行政が機能していない

住人が法を無視していても行政すら対応しない。


JAPAN-2ジャパンセカンドではほとんど有り得ないことだった。確かに怠惰な職員や警官もいるが、それはロボットが補ってくれる。しかしここカルクラでは、そのロボット自体が少ない。そして稼働しているものも、多くが第二次火星大戦以前に製造された旧式のロボットだ。まっとうな社会ではすでにシステム上で対応できない部分が多く玩具おもちゃ以下の値打ちしかないそれらでも、そもそもシステムが満足に稼働していないここでは今なお現役だった。


クラヒが以前使っていた、


<デッサン人形のようなレイバーギア>


も、製造されたのはここ十年内だと言うが、そのモデルが出たのはそれこそ第一次火星大戦以前である。ゲームの<雑魚キャラ>のごとくただ突撃を行うしかできなかった軍用ロボットの民生品仕様とでもいうべきシロモノだ。


だから、一応は現在の基準に沿った設定も行われていたもののそれすら知識のある使用者なら自身で勝手に設定を変えてしまうこともできた。ゆえに、不法な行為でも人間に命令されれば実行できてしまう。


そういう現状についてはストレスも感じるものの、その一方で、クラヒの下で働くこそ自体は本当に不満らしい不満はなかった。こんな破損したガラクタのような自分でもきちんと道具として扱ってくれるクラヒに対しては、感謝もしていた。


それら諸々の<有り得ない状況>が影響したのか、


「クラヒ! 次は何をすればいいですか!?」


「あ~、俺は昼寝するから、請求書の整理だけしといてくれ」


「分かりました!」


などと、振る舞いが明らかに幼くなっていた。人間で言えば<幼児退行>に等しいくらいに。


確かに、オーナーの趣味嗜好を学習し、最も好まれるような振る舞いをするようにもできる。アリシアシリーズはそういうロボットだ。しかし、クラヒはむしろ、


「なんだそのガキっぽいのは。俺はガキは嫌いなんだよ」


と口にしていた。けれどアリシアは、


「えへへ♡ ごめんなさい」


ますます子供っぽい振る舞いをする。


これは、様々なストレスを彼女なりに緩和するための<自己防衛反応>だったのかもしれない。元々正常な状態ではないため、普通ならそうはならない反応が出た可能性はある。


そしてクラヒも、『ガキは嫌いなんだよ』とは言いつつ、彼女に対してそんなに理不尽な振る舞いはしなかった。


面白くないことがあった時には酒を飲んで、


「なんだくそったれが! ふざけんな!」


などと声を荒げながらアリシア目掛けてものを投げつけるようなことはあったりもしたが。


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