千堂アリシア、ハウスキーパーに挨拶をする
「レディ・アリシア。あなたは客人ですので、あなたの行動に対して、我々の常識から大きく逸脱しない限りは特に制約は設けません。私のメイド達の指示に従っていただければ、屋敷内での行動も自由です。私はいつもこの時間には仕事に出ますので、分からないことがあればこちらのハンナにお尋ねください」
そう言ってエドモント・ジョージ・フレデリックが紹介したのは、同じ<ドロシーmk-6>だった。しかしまとっている服が、アリシアがリンクしているドロシーmk-6>とは明らかに違っている。それは、<ハウスキーパー>を意味する、格段に緻密な意匠が施されたものだった。腰には鍵束が吊るされていて特にこれが、
<ハウスキーパーの象徴>
とされている。つまり、
<鍵を預かれる立場>
を意味しているのだ。かつてハウスキーパーはその家で働くすべてのメイドの頂点であり最高責任者であったという。もっとも、現在は従属的な意味でメイドを置くことは禁じられているので、その役割には原則としてメイトギアが充てられている。このハンナは、エドモント・ジョージ・フレデリックの屋敷で運用されているメイトギアのまさに<プライマリ>の立場にあるということだろう。
ちなみに、ハンナが腰につけている鍵束もあくまで意匠の一つでしかなく、実際に使える鍵も含まれてはいるものの基本的には屋敷の鍵ではない。彼女がハウスキーパーであることを示すための<飾り>ではある。
それを承知した上で、
「よろしくお願いいたします」
千堂アリシアが挨拶をすると、ハンナは、
「御用の節は何なりとお申し付けください」
相手は<主人の客人>ということであるため、非常に丁寧に挨拶を返してくれた。これが生身の人間のハウスキーパーの場合だといろいろ思うところがあったりするかもしれないものの、メイトギアはそのようなことには決して囚われない。自身の役目を確実に果たすだけである。
かつて、千堂アリシアが
<故障した危険なロボット>
と認識されていろいろあったものの、今ではもう、そのように認識されることもなくなった。千堂アリシア自身が自らを律しロボットとしての範疇を越えない反応ができるようになったがゆえに。
ハンナも、千堂アリシアに対して警戒はしない。むしろ生身の人間に対しての方が、態度には出さないものの要警戒とフラグを立てたりもしただろう。人間は感情に支配される生き物であるがゆえに、思いがけない行動をすることがあるのだから。
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