千堂アリシア、ドロシーmk‐6とリンクする
「この度は特段の配慮を賜り、恐悦至極にございます。閣下」
<ドロシーmk-6>にリンクした千堂アリシアは、目の前にいた、エドモント・ジョージ・フレデリックに、エプロンドレスの裾をつまみ会釈した。すると、
「ああ、堅苦しい挨拶はいい。私は確かに王の血を引く者ではあるが、今はあくまで公爵であり一貴族に過ぎない。それに君は大事な客人だ。楽にしてくれたまえ」
そう応えた初老の男性は、物腰柔らかな、穏やかな印象の人物だった。事前の説明から受けていたそれとはかなり違っている。かなり気難しい人物だと想像していたのだ。
「ありがとうございます。エドモント様」
アリシアは少しホッとしながら改めて頭を下げた。その彼女の今の姿は、アリシア2234-HHCの標準仕様に見られる、
<アニメによく登場するメイドを想起させる裾の大きく広がった短めのスカートのエプロンドレス風のそれ>
ではなく、古式ゆかしい<ヴィクトリアンメイド>と呼ばれるものを基にした、ロングスカートを穿いた実に質素で堅実なそれだった。頭にはウイッグを収納できるメイドキャップを被り、袖も、よく見られるパフスリーブ型の装飾が施されたものではない。
アニメなどの影響で広まった<コスプレ的なメイド>は俗に、
<フレンチメイド>
とも呼ばれ、ヴィクトリアンメイドの流れを汲む<本来のメイド>(古式ゆかしいそれを好む者にとっての)とは本質的に違うものなのだという。ちなみに、この場合の<フレンチ>とは、『フランスの』という意味ではなく、かつてイギリス人が『下品な、不躾な、下劣な』というニュアンスで使った表現が由来となっているとのこと。
ゆえに、ヴィクトリアンメイドを良しとする者にとってはフレンチメイドは邪道なのだそうだ。
とは言え、日本製アニメによく見られた<フレンチメイドスタイルのメイド服>の意匠を外装に取り入れたメイトギアのシェアは実に八割を超えているというデータもあって、<メイドの定義>にそこまで拘っている者はむしろ少数派となっているのも現実ではある。
さりとて、『グレートブリテン王国こそが我が祖国』と考えるアルビオンの住人らにとってはやはり<ヴィクトリアンメイド>が好まれるようだ。
なお、余談ではあるが、<ヴィクトリアンメイド>自体は、あくまでその語源となった<ヴィクトリア朝>当時の家事使用人を指す言葉であり、実は<グレートブリテン及びアイルランド連合王国>(注:<グレートブリテン及び北アイルランド連合王国>とは別)時代のそれではあるので、この辺りはまあ、いい加減さを表していると言えるのだろう。
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