千堂アリシア、旅の目的
千堂アリシアが<リモートトラベル>を行っているのは、別に観光名所を巡るためではない。より多くの人間の生の暮らしに触れたいと思ってのことだった。
だから今回のような事態はむしろ歓迎されるべき事例だろう。ただし、人間がつらい思いをしているのは、ロボットである千堂アリシアにとっては好ましい状況ではない。
ゆえに彼女は、可能な限り少女に寄り添う決断をしたのだ。
「この後のご予定は?」
アリシアの問い掛けに、少女は、
「別に……予定なんかないよ……」
顔を背けたまま呟くように応えた。
「では、私と一緒にホテルに泊まりませんか?」
「ホテル……っ?」
アリシアの申し出に少女はギョッとしたような表情になる。
『こいつまさか、<そっち>だったか……?』
そう邪推してしまったようだが、無論、千堂アリシアにそんな意図はまったくないし、そもそも彼女がリンクしているアリシア2234-HHCアンブローゼ仕様にそんな機能も備わっていない。まあ、手や口の機能は人間のそれを再現しているので、ある程度はできなくもないのだが、メイトギア越しにそんなことをして何になるというのか。
そういう性癖の持ち主もいないわけではないだろうが……
いずれにせよ、少女の心配はただの邪推だったが、当人は大真面目に、
『でももう、そのつもりだったし……いいや、どうでも……』
と投げやりな気分になっていた。見当違いではあるものの、本人は覚悟を決めてたのだ。
が、こうして実際にビジネスホテルと称される業態のホテルに入ったものの、
「どうぞ、寛いでいてください」
アリシアにそう言われ、少女は所在なげにテレビを見たりゲームをしていただけだった。
椅子に座って待機状態になったアリシアに時々意識を向けるものの、まったく反応がないことに拍子抜けする。
『なんだ……ただのお人よしのバカか……』
とも思いつつ。
そうしてシャワーを浴びてバスローブ姿になった少女は、ベッドに横になって携帯端末でゲームをしているうちに眠ってしまっていた。気を張っていたのが緩んでしまって、それで急激な睡魔に抗いきれなくなったらしい。
しかし、そんな少女とは対照的に、アリシアは自身の通信機能をフル活用して、関係各所との連絡および調整に追われていた。
まずは警察に、
『家出人と思しき少女を保護している』
と通報。捜索願の有無を問い合わせていた。しかしこの時点では該当する捜索願は出ていない。警察としても、保護しているのがメイトギアであるなら急いで対応する必要もないとして、児童相談所などとの連携の手続きに入っていたのだった。
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