千堂アリシア、旅の醍醐味
ここまでのやり取りで少女の大まかな事情を察した千堂アリシアだったものの、それは<虐待>も含んだものである可能性があったので、そのまま家に帰すようなことはしなかった。虐待の被害者が逃げ出した場合、自宅に戻せばさらに苛烈な<折檻という名の虐待>に発展する可能性があることは分かっており、いきなり家族の下に送り返すような真似はしない。虐待の事実がないと確認されるまでは、児童福祉施設で保護されるのがほとんどだ。
ただ、親から虐待を受けた子供は大人自体を信じていないことも少なくないため、児童福祉施設の大人達のことさえ信用しない事態は珍しいものでもない。だから施設からも脱走する事例もある。
ゆえに千堂アリシアは、状況が判明し次の対処を行えるようになるまでは、この少女の傍にいることにした。
それに、アリシア2234-HHCアンブローゼ仕様は一般仕様機とはいえ、暴漢から暫時主人を守り警察の応援を待つくらいの芸当は可能なのだ。
なお、それは千堂アリシアがリンクしているからではなく、ロボットである以上は人間が危機に瀕していたらそれを守るために動くので、さほど関係はない。救命のために破損した場合は保険が下りるゆえに、経済的に困ることもない。
完全に保険が下りないのは、持ち主が自分で破壊するか、メーカー保証が無効になるような改造を施してそれが原因で故障した時くらいである。外装パーツを交換する程度なら問題ないのだが、内部の機構に手を加えるような改造は、ほとんどの場合、アウトだと言われている。
以前、千堂アリシアが
と、それらは余談なので脇に置くとして、いずれにせよ千堂アリシアは、まずはこの少女を保護しなければと判断した。
『せっかくの旅行中なのに』
そう思う者もいるかもしれないが、アリシアにしてみればこういうトラブルに巻き込まれることも<旅行の一部>であったため、本人はまったく気にしていない。なにより、こうして旅行に出ていなければ遭遇しなかった経験なのだ。いわば、
<旅の醍醐味>
というものなのだろう。
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