ラブドール、その本来の意義

現在、<性風俗>と呼ばれる業態の店で運用されているのは、<ラブドール>と呼ばれるロボットである。ただ、本来の<ラブドール>は<医療器具>にも分類される、


<セックス依存症や反社会的性愛症の治療器具や症状緩和のための補助具>


という扱いだったりもするので、この手の商業施設で運用されるものについては、


<コンパニオン>


とも称されることもあるが、機能的には特に違いはない。単に、<医療器具としてのラブドール>には保険適用も受けられるが、商業利用されるそれには当然ながら適用されないという程度の違いしかない。


使用目的が違うだけで基本的には同じものなのだ。


また、<ラブドール>という単語自体は、<メイトギアに対する蔑称>という側面もあり、千堂アリシアも自分がそう呼ばれることにショックを受けていた時期もあった。


が、<ラブドール>の実機と面会。どのように運用されているかを詳細に知ることですでにその呪縛からは解き放たれている。


だからむしろ問題は人間の方にあるだろう。


『いかに人間に似せて作られていようともロボットは道具である』


という事実は、裏を返せば、


『いかに人間を<道具>と見做してその尊厳を無視しようとしても、人間は人間である』


ということでもある。今なお、人間そのものを<道具>のように扱い、搾取を行おうとする者は存在した。特に、


<生身の人間による性的サービス>


は、ラブドールやコンパニオンと呼ばれるロボットが普及したからこそ価値が高まるという皮肉な結果ももたらしていた。


もちろんそのような行為は法律で厳しく禁じられており、場合によっては終身刑さえある重罪である。にも拘らず、年に数人の逮捕者も出しつつ続けられていた。


ちなみにこれは、


<自ら進んで性的サービスを行うことを始めた当人>


についても罪に問われる。要するに、


『他者に強要されたのではなく自ら望んで売春を行った者も罪に問われる』


という意味でもある。


実際、<生身の人間によって性的サービスを提供した罪>によって逮捕・起訴される者の約半数が、自ら望んでそれを行った者達なのだ。


地球のみならず火星においても、貧困に対する何らかのサポートは存在している。そもそも法律上はグレーな行為であっても、


『メイトギアに作物を作らせ主人がそれを消費する』


『メイトギアに漁を行わせ主人がそれを消費する』


ことも、あくまで各行政の裁量とはいえ、<貧困対策の一種>としてお目こぼしされていたりもするのだ。


『今日食べるものさえない』


レベルの貧困には普通は陥らないため、それを理由に『体を売る』必要はないのである。


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