明帆野の住人達、通夜を盛り上げる
こうして
「俺なんか、生まれてすぐにあんまり五月蠅いってんで、『静かにおし!』って頭はたかれたんだぜ!」
「いやいや俺なんか、小学校に上がっても寝小便が治らねえもんだから、『あんたのその粗末なもん、縫い付けてやったら治るかね』とか言われたんだぞ」
などと、普通に考えれば医師としてはあるまじきエピソードを口にしていた。
もっともそれらは、
『生まれてすぐに頭をはたかれた』ことなど覚えているはずもないし、冗談でも夜尿症の相談に来た患者とその家族に『局部を縫い付けてしまおう』などと口にするはずがないというのは、
<酒の席での戯言>
として成立する。こんなこと、
『不謹慎も大概にしろ!!』
と、つまみ出されても文句は言えまい。
そしてもしここに
「あんたら、いい加減におし! 人を何だと思ってんだい!!」
的に怒鳴りながら、けれど目は笑っていただろう。なればこそ、
「先生ぇ……先生よお……」
こらえきれずに泣き出す者もいた。そんな者に対して、
「バカヤロウ! 先生にどやされんぞ! 湿っぽくするんじゃねえ!」
などと諫める者もいるが、その目には涙が光っている。
それらの様子を、森厳とレティシアも、微笑みながらもどこか神妙な面持ちで見守っていた。
一方、
けれど、安吾も立志も、他の弔問客から酒を勧められてほろ酔いの状態で、それぞれ自宅への道を歩いた。
空を見上げれば無数の星々。都会ではなかなか見られないものだが、ここに住んでいれば当たり前のそれを、
『人は死ねば天国に行ける』
とか、
『星になる』
とか、そんな話は今さら信じてはいない。いないが、
『先生……どうか俺達を見守っていてください……』
という風には素直に思えたのだった。
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