間倉井医師の後任、有力な候補が決まる

こうして間倉井まくらい医師の後任の選定も始まり、間倉井まくらい診療所の運営に関する問題はほぼ解消に向かいつつあった。ちなみに後任として有力視されているのは、改めて名乗り出てきた若い医師だった。


まだ三十代と若輩ではあるが、一時、テロ多発地域での医療支援に従事していた経験もあり、所属していた支援団体が代表の病死に伴って解散したためJAPAN-2ジャパンセカンドに戻り改めて律進慈りっしんじ医科大の院に入り直して研究の道を進んでいたものの、本人の希望は、大病院でのシステマチックな医療よりも、さらに患者との距離が近く、自身が責任を負う代わりに納得のいく医療が行える環境だった。


現在、都市部では、個人の医師に責任を負わせすぎないように責任が分担されるような仕組みになっており、医療事故などで生じる責任については、病院の経営母体となっているJAPAN-2ジャパンセカンドが負う形になっている。それにより医師個人に無限責任が負わされたりしないようになっているのだ。


このことで『医師個人の責任感が薄れている』という批判もあるものの、その一方で、医療事故が発生した際に当該医師の有責が確定するまで被害者の補償に手が付けられないという事態がなくなり、JAPAN-2ジャパンセカンドが速やかに対処、補償を肩代わりし、責任の所在がはっきりした時点で改めて精算を行うという。


この方式は、ほとんどの都市で採用されており、地球も含めて主流となっている。


もちろん、その仕組みを悪用しようという不埒な輩も稀にいるものの、補償を肩代わりすることになるJAPAN-2ジャパンセカンドが徹底的に精査するので、そんなことが見過ごされる事例もほぼない。百パーセント完璧ではなくても、極めて例外的な事例だろう。


その精査の際にも、AIが活用される。人間では見落としがちな改竄の痕跡さえ見付け出すことが多くあり、実績を上げているとも。


そのように医療システムそのものも進歩しているものの、逆にあまりにシステマチックになり過ぎたそれを嫌う<変わり者>も、やはりいるのだ。


間倉井まくらい医師もその一人だったと言えるだろう。そして同じ系統の変わり者が現れてくれたのだから、そちらに任せない道理もない。


その医師の名は、獅子倉ししくら大和やまとJAPAN-2ジャパンセカンドロボティクス部門メイトギア課の技術主任である獅子倉ししくらの甥であった。ロボット畑に進んだ叔父とは違い、医療畑に進んだようだが。


夜。間倉井まくらい診療所の診療時間が終わると、千堂アリシアも解放される。


「すまないな。仕事を増やしてしまって」


結果として千堂アリシアへの要請を承諾した千堂京一せんどうけいいちが、家に帰る車の中で彼女を労う。


「いえ、赤ちゃんを傍で見られて楽しいです♡」


と、入院中の寛慈のことが可愛くて仕方ないアリシアは、笑顔で応えたのだった。


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