安吾と間倉井医師、就寝する

そんな風に我が子と面会を行っていた安吾だったが、しばらくすると気が抜けてしまったのか、待機所の座席に座って横になると、気を失うようにして眠ってしまった。


すると久美が毛布を手に現れて、安吾の体に掛けていく。


なお、この時すでに、間倉井まくらい医師も眠ってしまっていた。


「さすがにこれ以上は」


と朝倉病院側から言われて、間倉井まくらい医師も渋々従い、朝倉病院に勤務する産婦人科の当直医にニーナの処置を引き継ぎ、就寝したのだ。


そして朝倉病院の産婦人科の当直医の指示の下、アリシアはニーナの処置を終え、久美と共に彼女をストレッチャーへと移動させ、分娩室を出、新生児室脇の個室へと移動した。その際、待機所を通り抜けるため、ニーナは、椅子で力尽きて寝ている安吾の姿を見て、


「ありがとう…パパ……」


疲れた表情ながら彼を労った。安吾はニーナを、ニーナは安吾を、互いに労わり敬うことのできる<伴侶>だった。そしてこの二人が、寛慈かんじの<親>となる。けれどこの二人ならきっと、寛慈を受け止めてくれるだろう。


二人だけでなく、この明帆野あけぼのには、力になってくれる人間はいくらでもいる。正直なところ、面倒なことはロボットに任せ丸投げしてしまう傾向にある他の都市に比べれば、よっぽど人間同士の距離が近い。ロボットに頼らない分、ロボットにやらせていた部分も人間自身がしなければならないからだ。そしてそれができる者達だからこそ、ここに住んでいる。


厭世観に囚われ、それこそ『人間の顔など見たくもない』と考えるようなタイプの者は、また別のところに住むことになる。いずれ機会があればそれについても触れることになるかもしれないが、今は脇に置かせていただく。


そして……


「千堂様、状況終了です。お疲れ様でした」


夜が明けて、オフィスに設けられた仮眠室で寝ていた千堂が「む……」と眠りから覚めると、アリシアが穏やかに声を掛けてきた。その様子に、


「無事に終わったようだな……」


千堂もホッとした表情で口にする。


「はい。間倉井まくらい様のオペも成功。辻堂つじどう様も母子ともに健康です」


「それは何よりだ……アリシアもご苦労様」


「ありがとうございます♡」


そんな風に千堂京一せんどうけいいちと千堂アリシアがやり取りをしている一方で、


「おかえりなさい。茅島かやしま様はよくお休みになられてますよ」


「ありがとうございます」


明帆野あけぼの荘に徒歩で帰ってきた秀青のアリシア2234-LMNが、玄関前の掃除をしていた美月に出迎えられ、秀青が寝ている部屋へと戻ってきたのだった。


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