秀青、千堂京一に連絡を取る

医療が高度に発達したこの時代でも、まだ<死に至る病>というものはある。立志りっしの母親の例もそうだし、間倉井まくらい医師が発症したとみられる大動脈解離も、放置すれば死に至ることもある病だ。


特に間倉井まくらい医師のそれは遺伝子疾患が原因となっているものであり、根治は難しいとされている。あくまで大動脈解離を発症しないように気を付けて、もし発症した場合には対処療法を行うだけだ。


そして現時点では、外科手術を用いる以外にない。


もっとも、<外科手術>と言っても、現在のそれは大半がマイクロマシンの集合体である専用のカテーテルを用いたものであり、いわゆる<開腹手術>とされるものは滅多に行われない。今回の間倉井まくらい医師の症例であっても、症状が進んでいないうちならカテーテルを用いた術式となるだろう。


なお、カテーテル自体がマイクロマシンを用いたロボットでもあり、専用の装置であれば直接リンクして遠隔地の医師が操作することもできる。


ただし、その場合、これまでにも何度も触れたようにほんのわずかとはいえラグが生じるので、特に繊細な操作を求められる場合には、万が一を恐れ患者を医師の下へと搬送することが多い。


医師側としても<万が一>があってほしくはないからだ。


しかし、現在、明帆野あけぼのを含む広い地域で激しい風雨に見舞われており、とても安全に搬送できる状態になかった。となればやはり遠隔地医療という形で対処することになるのだが、それに協力してくれる医師が見付からないのである。


律進慈りっしんじ医科大>からの干渉によって。


非常に愚かしいことではあるものの、これもまた人間という生き物が持つ<業>と言えるのかもしれない。


とは言え、簡単に諦めるわけにはいかない。<最善の策>が取れないなら<次善の策>を用いるだけだ。だから、秀青しゅうせいは、迷惑を承知で千堂京一せんどうけいいちの端末に電話を掛けた。


「む……?」


私用電話については受け付けない設定にしてあった携帯端末が着信を知らせてきたことで、会議に出席中だった千堂は、


「失礼、緊急の連絡が入りましたので」


そう告げて会議室を出た。その上で着信画面を見て、


「秀青君……? 何事だろう……」


呟きながら通話ボタンを押す。すると、途端に、


「千堂さん! 人命にかかわる緊急事態につき、非礼を承知で連絡させていただきました! すいません!」


緊張した様子の声に、千堂も、


「構わない。何があった?」


単刀直入に尋ねる。それに対して秀青も、


明帆野あけぼのという集落で、現在、大動脈解離で緊急オペを必要としている患者がいるんです。でもその患者自身が明帆野あけぼの唯一の医師で、でも、遠隔地医療の要請が断られてしまって……!」


用件だけを伝えてきたのだった。


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