立志、生理的にメイトギアが嫌い

「……」


自身が運転するトラックの前を、激しい雨に打たれながら安全を確認しつつ先導するアリシア2234-LMNを、立志りっしは何とも言えない表情で見ていた。彼はロボットが、特に、嘘くさい笑顔で人間に媚を売ってくるメイトギアが生理的に嫌いだった。


つまり、千堂京一せんどうけいいち茅島秀青かやしましゅうせいと似たような形でメイトギアに苦手意識を持っていたということである。


彼自身は穏やかな両親の下に生まれ、母親が夭逝した以外はここまで取り立てて大きな不幸もなく穏やかな人生を送ってこれたが、メイトギアに対する生理的嫌悪感ゆえに一般的な社会では居心地が悪く、母親が病気で亡くなったのをきっかけに、心機一転、家族全員で再出発するために揃って明帆野あけぼのに移住してきたというのが経緯だった。


しかし、秀青が連れているメイトギアは、他のメイトギアが見せる嘘くさい笑顔ではなく、終始淡々とした振る舞いをしている。すると、それまでメイトギアに感じていた生理的嫌悪感が嘘のようになくなっていたのだ。


それどころか、激しい雨に打たれながら自分達を先導しているその姿に、罪悪感すら覚えてしまう。ロボットなのだからまったく気にしていないはずなのは分かるのだが。


結局、立志のロボット(メイトギア)嫌いは、その程度のものだったということだろう。それなら、千堂京一せんどうけいいち茅島秀青かやしましゅうせいがそうしているように、設定一つで何とでもなるのだ。彼はそれを知らなかっただけである。


確かに、まったく笑顔を見せないようにするという設定は一般的ではないし、一般的に知られている設定では、ここまで冷淡な表情にすることはできない。分かりやすく微笑んではいなくても、柔らかい印象になる顔付きに収まるのだ。千堂や秀青は詳しいからこそ特殊な方法で設定を変更できたというのもある。


立志にとっては、ロボットらしい無表情の方が違和感を覚えずに済むということか。


なお、立志自身は非常に健康で滅多に間倉井まくらい診療所に出向くことがないので、久美や亜美とはほとんど顔を合わせずに済んでいる。父親の訓臣のりおみに<1型糖尿病>の持病があることで何かと世話になっているというのがあるのだ。


ちなみに訓臣のりおみの<1型糖尿病>は、


『膵臓のβ細胞が機能を失いインスリンが分泌されなくなる』


という意味では一般的な<1型糖尿病>と同じなのだが、現在では治療法が確立され多くが寛解するものと違って、現在でもはっきりした原因が掴めておらず膵臓のβ細胞の機能が取り戻せないという難治性の特異な事例であった。


さりとて、インスリン注射さえ確保できればそれほど日常生活には支障がないものではあったが。


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