宿角結愛、おじいちゃんおばあちゃんに会う

「ああ、よう来たよう来た!」


宿角すくすみ結愛ゆなの父親が「こんにちは!」と声を上げながら引き戸を開けると、奥から年齢を感じさせる声が届いてきた。その直後に姿を現したのは、見た目上の年齢だけで言うと八十歳くらいの老人だった。


「おじいちゃん!」


老人の姿を見た瞬間に、結愛が声を上げる。と言っても、直接の祖父ではない。彼女の曽祖父の弟の、


宿角すくすみ・マティーロ・森厳しんげん


だった。いかにも<好々爺>といった風情の、柔和な表情の老人だ。その森厳に頭を撫でられ、結愛はくすぐったそうに笑みを浮かべる。それがまた愛らしくて。


するとさらに奥から、


「あらあらいらっしゃい」


これまた柔和な笑顔を浮かべた上品な感じの老女が現れ、結愛の前に正座した。こちらは、


宿角すくすみレティシア>


という、東スラヴ系ロシア人の流れを汲む女性だった。と言っても、印象としてはアジア系寄りの外見なので、


<彫りが深い日本人>


と言われればそうかもしれないと思ってしまう印象はある。


そんな二人が住む家は、二十世紀前後の伝統的な日本家屋を再現したものであり、内装などはそれこそ、


<田舎のお祖父ちゃんお祖母ちゃんの家>


といった風情だろう。もっとも、屋根はやはりソーラーパネルを兼ねたものなので、外観は何とも言えない違和感もある。また、建材は現在の技術を用いて加工されたものであり、防虫処理・防腐処理・難燃処理が施されていて、シロアリなどに食い荒らされているような気配はまるでない。


「おじゃまします」


「おじゃまします♡」


結愛の両親と結愛が挨拶をしながら靴を脱いで板間に上がり、奥に進むと広々とした和室が見えた。畳が敷かれている。もっともそれも、実は<畳を再現した床材>であり、合成樹脂製の<畳表風のシート>が貼り付けられたものなので、いわゆる畳の匂いはしない。


だが、ここで<本当の日本の伝統的な住宅>を知るのは森厳のみなので、違和感を覚える者もない。『こういうものだ』と認識してるだけである。


それでも、


「いや~、やっぱり畳の部屋は落ち着きますね」


結愛の父親がそう言うと、


「ははは、でもまあ、今じゃ<本物の畳>も滅多に見なくなったがな」


森厳は笑ってみせた。


そして、結愛達が<ちゃぶ台>を囲むと、森厳とレティシアが二人でお盆に茶とオレンジジュースとコップを乗せて運んできた。


この時代、男性も家事をするのが普通なので、本来<ゲスト>であるはずの結愛の母親に家事をやらせたりもしない。あくまで<ホスト>側が歓待するのが当然であった。


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