宿角結愛、親戚宅に到着する

「?」


そうして、護岸を這う<火星マミズフナムシ>の記録に夢中になっている茅島秀青かやしましゅうせいを、宿角すくすみ結愛ゆなが不思議そうに見つめた。


「虫を見に来た学生さんみたいだね。ずいぶんと研究熱心な青年のようだ」


結愛の父親が、感心したように呟いた。


「ホントにね。わざわざこんな辺鄙なところにまでなんて」


母親も、穏やかな様子で口にする。どちらも、秀青しゅうせいの振る舞いを<奇行>のようには捉えていない。ともにそういう感性を持たない人物であることが分かる。


宿角家の人間は、基本的に他者を蔑まない。嘲らない。見下さない。代々それを良しとしてきたし、それを理解する者だけを親族に迎えることを心掛けてきた。そうすることで自分達の幸せを築いてきた者達だった。


それでいて、理不尽な<侵略者>に対しては敢然と立ち向かう気概も秘めている。単に『優しい』『人が好い』だけではないのだ。


そんな両親と共に、結愛は、いかにも<のどかな離島の港>という景色の中を歩いた。その光景は、とても<二十五世紀の火星>のそれとは思えなかった。本当に、精々二十一世紀頃の日本の離島のそれであった。


ただ、二十一世紀頃の日本の風景とは決定的に違う部分もある。<電柱>が一本もないのだ。基本的に無線給電がインフラとしてごく当たり前になっているので、必要ないのである。


それ以外には、ほとんどすべての建物の屋根がソーラーパネルを兼ねた屋根材でできているくらいだろうか。あと、走っている自動車もすべて電気自動車である。もっとも、百年くらい前のモデルばかりだが。


また、港に停泊している船も、同じく百年くらい前の規格の電動船ばかりだった。


よく見ると湖にはいくつもの<ブイ>が浮いており、それらは無線給電用の中継器を兼ねていた。


一方、島には、いくつもの風力発電機が立ち、その脇には、小規模な<ガスタービン式火力発電所>も見える。ソーラーパネルと合わせて、それらの設備は、せいぜい一代前くらいの比較的新しいものであり、インフラそのものについてはしっかりとしたものであるのが分かる。


なのに、船や自動車は、百年くらい前の、それこそ<第一次火星大戦>前後に現役だったモデルばかりだった。


とは言え、まだ小学五年生の結愛には、それほど違和感を覚えるようなものではなかっただろう。


両親と共に歩く自身の脇を「ルーン」とモーターの音をさせて港の方へと走っていく小型トラックに対しても、興味も示さない。彼女にとっては普通の自動車との違いが分からないからだ。


そうして、三十分ほど歩いたところで、彼女の親戚宅に到着したのだった。


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