野生の肉食獣のような男、心情を吐露する
人工授精で得られた受精卵を分割することで複数の受精卵とし、それらを凍結保存して不妊治療に用いることは、珍しくない。事実、そうやって生まれた、
<年齢の違う一卵性双生児>
も、現に存在している。だが、一卵性双生児は、同一人物ではない。顔認証システムも、一卵性双生児を同一人物だとは判定しない。
これは、たとえ一卵性双生児であっても、成長過程においてそれぞれが外的要因の影響を受けて、わずかな差異を生じるからである。その事実は、
『遺伝子だけですべてが決まるわけではない』
ことを証明している。
今ここにいる、
<クグリを思わせる人物>
が、もし、クローンであるなら、逆に説得力が出てしまうだろう。完全にクグリと同じ環境で成長したわけでないなら、外見上にも細かい差異が生じているのも頷ける。
そして、クグリに似た印象を持つ<野生の肉食獣のような男>は、さらに言った。
「お前も知ってると思うが、クローンはそのままじゃ本人と同じにはならねえ。人間を作るのは環境要因が大きく影響するからだ。しかも、ちょっとした違いで、それこそ立ってる位置が違うとかその程度の違いの積み重ねで、たとえ同じ境遇に置いたとしても同じ性格人格に育つとは限らねえ。クグリのクローンを作っても、それは、<ゴリラ並みの身体能力を持つだけのヘタレ>に育つかもしれねえ。
で、俺を作った奴らは考えたわけだ。『なら、クグリの人格データをインストールしてみては?』ってな。これも結局は外的要因の一つでしかねえが、かなり影響は大きいはずだってな。そうして作られたのが俺だってこった。
しかもそれは、クグリがいた時から始められてたんだよ。あいつのゴリラ並みの身体能力に目を付けた奴らによってな」
<野生の肉食獣のような男>は、どこか嘲るような雰囲気も放ちつつ、そう説明した。それをすべて信じるには情報があまりにも足りないが、それでもメイトギアは問う。
「クグリは、生きているのですか……?」
けれどその問い掛けに対しては、
「さあなあ。一卵性双生児には<不思議な力>ってのがあって片割れに何か異変があったらそれがもう一方にも伝わるなんてことも言われちゃいるが、少なくとも俺はそんな実感はねえな」
やはりどこか嘲るような態度で応えてみせた。その手には、対ロボット用の大型拳銃、<ハンドカノン>が。クグリも愛用していたそれを、この男も使っていたのである。
男は言う。
「正直、俺にゃクグリの気持ちなんてのも理解できねえ。あいつの思考パターンはインストールされてるはずだが、あいつほどテロにも殺しにも興味はねえんだ……」
そこでいったん言葉を切り、虚空を見つめた後、改めて目の前のメイトギアに向き直り、
「だが、どうにもお前とはやりあってみたいと思ったんだよ。
なあ、アリシア……!」
およそ正気とは思えない笑顔で、そう告げたのだった。
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