野生の肉食獣のような男、自己紹介する
『あなたは……クグリ…なのですか……?』
<野生の肉食獣のような男>と対峙したメイトギアは、そう尋ねた。けれどその男は、「くくく…」と、面白くて仕方ないという感じで唇の端を吊り上がらせて、
「半分は正解だが、半分は不正解だ」
意味不明なことを口にする。その上で、
「俺に<名前>はねえ。まあ、強いて言うなら、<試作品三号>ってのが、名前ってことになるのかな?」
などと、さらに意味不明なことを。そして、男の言ってることに嘘はないと、メイトギアの機能が告げていた。嘘を言っている人間が生じさせる生理的な反応が一切検知できないのだ。
もっともそれは、
『本人が完全にそれを事実だと認識している』
場合にも、たとえ事実でないとしても検出できないので、絶対の信頼性が担保されているわけでもないのだが。それでも、本人が事実でないことを告げているという自覚があれば、間違いなく検出される。
つまり、この男は、
『半分は<クグリ>でありつつ、もう半分は<クグリ>ではない』
と、本気で認識しているということだ。そして、自身を<試作品三号>と称した点についても、嘘は言っていない。
その事実から、メイトギアは推測した。
「まさか……クローン……?」
そう。男の発言が事実であるなら、それが最も当てはまる推論だろう。人間のクローンを生み出す技術そのものは、すでに確立している。しかも、人間自身を母体としなくても済む、<人工子宮>の開発にも、すでに百年近く前に成功している。ただしそれは、何らかの事情で自身の体に胎児を宿せない事情を持った女性でも子を持つことができるようにという願いの下に開発されたのであって、人間のクローンを作ることは固く禁じられている。
とは言え、技術的には十分に可能であることには変わりなく、ゆえに違法と知りながらクローンの製造を行おうとする者は後を絶たなかった。
あるものは、<若返り>を求めて。またある者は、<愛する人>を取り戻すため。
しかし、いくら肉体はクローンで再現できようとも、<記憶>や<人格>は、決して再現できない。<性格の傾向>についてはある程度までは再現される場合はあるらしいとはいえ、それすらまだ確定した事実ではない。
生まれてくる者は、決して<本人>ではなく、いわば、
<一卵性双生児>
のようなものでしかないのだ。人工授精で得られた受精卵を分割することで複数の受精卵を作り出すこともできるが、それによって人工的に作り出された<一卵性双生児>が、最も近いだろうか。
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