野生の肉食獣のような身のこなしをする何者か、背後を取る

こうして、様々な混乱を生じつつも、全体としての状況は推移していく。


とは言え、事ここに至っても不届き者が火事場泥棒的な振る舞いをすることからも分かるように、個々人の視点では、その場その場の状況に囚われているというのも事実だろう。


<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>の末端のメンバーにとってもそれは同じだった。元々、ニューオクラホマ各地に散らばって、計画の進行に合わせてあらかじめ予定されていた指示が表示されてそれに従うだけだったので、全体の流れなど、知る由もないのだ。


ましてや、主要メンバーの大半がすでに拘束されているなどとは、想像もしていない。そもそもどういう風に指示が出されているのかも理解できていない者がほとんどなのである。


この時代ではもはやAIの範疇には含まれないような非常に簡易なAIが、計画の進行度合いによって自動で指示を出しているのである。それに加えて、主要メンバーが適宜指示を出す予定だったのだ。しかし、末端の人間にとってはそれが自動で出されているものなのか主要メンバーの判断で出されているものかの区別すらつかないのだ。


そのため、警察や軍の部隊が近付いていても全く気付かず、まるで危機感を持たず、公園のベンチなどで、配信されているニュース映像を見ながら笑っている者さえいる始末。


<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>という組織自体がいかに<テロ組織>としてまともに機能していないかの証拠でもあるだろう。


ただ、その一方で、多少とはいえ目端の利く者の中には、それを見限って離反する者も僅かながらいる。


<岩丸ゆかりを抱え上げて拉致した男>の端末にアクセスしてきた、<アニメキャラの面を被った人物>もその一人だった。


なのに、中には、すでに組織として死に体であるそれを見限るわけでもなく、居座る者もいた。


そいつは、みっちりと中身が詰まった頑強な肉体を持つことが服の上からでも一目で分かる、見る者が見れば只者ではないことがすぐに察せられる、雰囲気のある男だった。


と言うより、ある人物のことを知っていれば、間違いなくそいつのことを連想してしまう感じだろうか。


何しろ、恐ろしく密度の高い筋肉で構成されているであろう分厚い体でありながら、まるで重量を感じさせない、それこそ野生の肉食獣のような身のこなしをするのだ。こいつに比べれば、<元軍人の男>どころか、<サイボーグの男>さえ、子供のようにも思えてしまうだろう。


そんな何者かが、サーペントの部隊の背後に立っていたのだった。


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