親友を自称する男、その生い立ち

親友マブを自称する男>は、<岩丸ゆかりを抱え上げ拉致した男>のシッターをしていた母親の三男として生まれた。


と言っても、長男次男は二十歳以上年上だったこともあり、彼が生まれた時にはすでに家を出ていて、実は顔を合わせたことも数回しかない。長男次男は、上流家庭の子女のシッターをしている母親のことを蔑んでおり、家にも寄り付かなかったのだ。


なお、これまでにも何度も触れたが、老化抑制技術が実用化されたことで健康寿命が百二十歳を超えたこの時代、二十歳以上年齢の離れた兄弟姉妹もそれほど珍しくもなく、しかも、三男が生まれた時にも、母親の肉体年齢自体は、健康寿命が六十歳前後だった頃の三十代相当であり、別に<高齢出産>というわけでもない。


ちなみに、俗に女性の<出産適齢期>と呼ばれる期間も、今では実年齢で八十歳を過ぎるくらいまで(健康寿命が六十歳前後だった頃の三十代半ばくらいまで)は該当するので、実年齢で七十くらいまで人生を謳歌した後に満を持して出産に臨む女性も多い。何しろ、八十で生んでも百歳で子供は二十歳を迎えるわけで、健康寿命が百二十のため、さらにまだ二十年くらいは人生を楽しめるということになる。


親友マブを自称する男>の母親も、<未婚の母>として三人の息子を生んだ。


もっとも、それ自体が、息子らの反発を招いたというのもあるだろう。何しろ、父親が誰なのか、母親は結局明かさなかったのだ。認知もされていない。上流家庭にシッターとして勤めて、父親の分からない子を三人産んでとなると、穿った見方をする者もなるほどいるだろうし、実際、長男次男は、それを理由に学校で蔑まれもしたのである。


母親を蔑むのはその辺りが理由として大きいのかもしれない。


そんな母親の三男である<親友マブを自称する男>については、長男次男での経験もあってか、母親は学校には通わせず、自宅学習で勉強を受けさせた。長年シッターをしてきた経験からか、ジュニアハイスクール程度の内容なら十分に教えることができたからだ。


なお、現在の火星では、都市によっても若干の違いはあるものの、年に数回行われる公的な試験を受けて合格点を得れば、相応の<修学証明書>が発行され、学校に通っていたものと同等の扱いとなる制度が存在する。


親友マブを自称する男>はそうやって学習し、その時点では母親が住み込みでシッターをしていたこともあり、<岩丸ゆかりを抱え上げ拉致した男>とは、幼い頃からの顔馴染みであったのだ。そして、<親友マブを自称する男>の方は、友達だと思っていたようである。


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