サーペント、状況開始

ウルヴァリン・ガーデン上空に到達した軍用フローティングヘリは、あるビルの上空数十メートルでホバリング。<サーペント>の隊員達が次々降下する。ブレーキのついたワイヤードラムに繋がれたワイヤーで体を支えることで自由落下よりは速度を落としつつも、普通の人間ならおそらく大怪我は免れない勢いでビルの屋上に着地した。


着地と同時にフックを外すとワイヤーは瞬く間に巻き取られ、フローティングヘリはその場を離れていく。報道のヘリがいくつもニューオクラホマ上空を飛び交っていてその音にかき消され、ごく一部の例外を除き、誰にも気付かれることはなかった。


「……」


現着したサーペントの隊員達は、そこからは通信によるコミュニケーションすら取らず、ハンドサインだけで最低限のやり取りをし、与えられた任務をこなすために動く。


『疑わしき者はすべて拘束。それが困難な場合は手段を問わず無力化せよ』


という命令を遂行するために。




こうして<本職の対テロ部隊>が動き出したことを察し、


「ここからはあちらに任せましょう」


「分かった」


と、暗闇の中でやり取りをした影が二つ、素早くその場を立ち去った。片方がもう片方を抱きかかえて。サーペントの到着を察した<ごく一部の例外>の一組だった。


一方、サーペントの隊員達は、三人一組で四つの班に分かれ、一組は降り立ったビルの中に。他の三組は、三メートルは離れている隣接するビルの屋上へと躊躇うことなく跳び、散っていった。


降り立ったビルは、岩丸ゆかりを拉致した者達が<次のアジト>として潜伏していたものだった。的確に<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>の中枢に狙いを付けていたのである。


さすがと言うべきだろうか。


しかし、当の<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>のメンバーは、自分達に迫る危機にまったく気付いていなかった。


彼らが集まっているのは六階建てのビルの一階の管理室。それ以外の部屋にも、実は人がいるが、それらはすべて<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>とはまったくの無関係な者達だった。


フリーのシステムエンジニア三組。作家二人。<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>とは別の思想活動家五人。ダンサー一人。無断で住み着いたホームレス七人。様々である。


そして、その内、システムエンジニア一組。作家一人。思想活動家五人全員。ホームレス一人が、上の階から順に次々と、サーペントの隊員の手によって拘束されていった。いずれも、今回の事件に関わっている疑いのある端末を持つ、<疑わしき者>だった。


他の者達にはまったく知られることなく、静かに、秘密裏に。


とんだとばっちりではあるものの、サーペントの隊員達には何の関係もない。彼らはただ、自身の任務を遂行しようとしているだけなのだから。


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