対テロ部隊、動き出す

こうしてディミトリス・メルクーリが仲間達と言葉を交わしている頃には、軍も、初動の遅れを取り戻しつつあった。対テロ部隊<サーペント>に出動命令が下され、軍用フローティングヘリに乗り込み、テロリストの制圧に乗り出したのだ。


ニューオクラホマに駐留している対テロ部隊、<サーペント>は、部隊の存在自体が秘匿され、当然、所属している隊員達のプロフィールなども一切明かされていなかった。


そこには、第三次火星大戦に参加経験のある者も複数含まれているらしいが、これまた詳細は不明である。


隊員同士のやり取りも、すべてが暗号化された通信によってのみ行われ、<会話>は存在しない。隊員同士、互いの本名さえ知らないという徹底ぶりである。


実は、隊員のうちの数名が専用のメイトギアであるらしいのだが、それすら、正確な数は明かされていない。


これらは、もちろん、隊員がテロの標的になることを回避するためでもある。


しかし、それほどの部隊であっても、かつては、<クグリ>を相手に後れを取ったことがある。<クグリ>が率いるテロ組織のアジトとみられていた邸宅に秘密裏に突入した際、多くのテロリストは無力化したものの、クグリ一人に反撃されて、隊員十五名のうち十名が死亡。三名が重症を負うという完全な敗北を喫した。


対テロ部隊<サーペント>にとっても屈辱的な過去だ。もっとも、この火星の対テロを想定して編成された実働部隊で、クグリにしてやられたことのないものを探す方が難しいくらいではあるが。


いずれにせよ、クグリによって実質的に壊滅させられた<サーペント>ではあるものの、新たに優秀な者達によって再編成され、以前よりもさらに強力な部隊へと生まれ変わったと言われている。今回の事件は、それを実証してみせるには絶好どころか、少々、<役不足>の感も否めないかもしれない。


口先だけは立派ではあるものの、なるほど今回のテロは大きな混乱を引き起こしたかもしれないものの、実際には素人の集まりでしかない<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>では、本領を発揮することは逆に難しいかもしれないのだ。


いずれにせよ、


『オイタの過ぎたガキ共に折檻してやる時間だ!』


とばかりに、実に静かで無駄口は叩かないとはいえ、『容赦なく打ちのめす』という必殺の気概は間違いなく漂っている者達を乗せ、軍用フローティングヘリは、夜闇にまぎれて基地を飛び立っていった。


目指すは、人類の夜明け戦線R(リベンジ)のメンバーらが潜伏していると見られている<ウルヴァリン・ガーデン>。


いよいよ、<反撃の時>である。


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