ディミトリス・メルクーリ、救護に当たる

『ったく、ツイてねえぜ……!』


内心ではそんな風に文句を言いながらも、ディミトリス・メルクーリは、彼が所有するレイバーギア<クンタッチLP400S>と共に地下鉄の乗客らの避難誘導を行っていた。


地下鉄のホームでも、火柱が上がったのだ。


さすがにこれには少なからずパニックも発生し、避難しようとした乗客らが階段に殺到して将棋倒しが発生、現在、二人が心肺停止状態だという。とは言え、そちらも、駅に配備された案内用メイトギアが救急措置を行ってくれているので、助かる可能性は必ずしも低くない。それよりは、骨折などの負傷を訴え身動きが取れなくなっている乗客らの救助が待たれる。


自身のメイトギアを連れていた乗客などは、そのメイトギアが主人を運び出してくれたりもしていたが。


実は、階段で乗客らが将棋倒しになった際も、その場にいたメイトギアらが可能な限り身を挺して下敷きになる人を減らしたことで、まだこの程度の被害で済んでいたというのもあった。


ただ、それにより、数台のメイトギアが破損。動けなくなったりもした。一般仕様のメイトギアでも、百二十キロ程度の人間であれば軽々抱きかかえられるパワーはあるものの、やはり戦闘を想定して作られている要人警護仕様機に比べれば耐久性も格段に落ちる。


そんな中、ディミトリスは、避難する乗客らが途切れたのを見て、


「ったく! ついてこい、クン!」


不満げにこぼしながらもクンタッチLP400Sを伴って地下鉄の駅へと階段を降りていった。


すると早々に怪我で動けなくなっている乗客を見付け、自身は手を貸せば動ける者を、クンタッチLP400Sは、怪我がひどく立ち上がることさえできない者を抱えて、地上へと運び出した。


そこに、通報を受けて駆け付けた救急隊員が、


「こちらへ!」


多数の負傷者がいるということで応急処置を行うために確保したスペースへと誘導してくれる。


「とにかく人手が確保できるまで俺とこいつで運び出す! 後は頼んだ!」


「分かった!」


ディミトリスは救急隊員とそう言葉を交わし、すぐさま階段へと戻る。その動きにはためらいはなかった。


第三次火星大戦で戦場に出た時には、もっと凄惨な光景も目の当たりにして、手足を失った戦友や、頭の半分が吹き飛ばされながらもまだ呻き声を上げていた戦友や、腹から腸をこぼれさせた戦友をメディックのところまで運んだりもした。それに比べればまだかわいいものだ。


加えて、軍を退役しサルベージの仕事を始めてからも、同じ現場に入っていた同業者らが事故を起こした時などにも救護に当たったりして、なんだかんだと慣れていたのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る