サイボーグの男、妄執に囚われる
ところで、警察用メイトギア二体を破壊したサイボーグの男は、動かなくなったそれらを執拗に破壊し続けた。ロボットに対する非常に強い憎悪と執着がうかがえる行動だっただろう。
と言うのも男の脳裏には、自身の<過去>がよぎっていたようだ。
それは、男がまだ幼かった頃の記憶だった。
彼の家は貧しく、<生活困窮者の救済措置>を受けていた。週に二度、メイトギアが彼の家に食材を届けてくれて、それを頼りに彼の家庭は成立していた。
だが、彼の両親は、無償で受けられるそれを頼りにして、自分達の<給料>のほとんどを、飲酒、薬物、ギャンブルへとつぎ込み、彼を含む五人の子供達の生活環境を向上させるためには一切使わなかった。
それどころか、届いた食材の調理さえしようとせず、子供達はほぼ生のままで齧ったり、電子レンジで加熱しただけで食べていたりもした。
そんなある日、父親が死んだ。
薬物の影響で、
『自分は何をしても許される、自分だけは死なない』
などという根拠のない思い込みに囚われて自転車で猛スピードで真っ直ぐ幹線道路へと飛び出し、自動車に轢かれて死んだのだ。交差点でもなければ駐車場の出口でもない、本来なら何かが飛び出してくるようなことのない場所で、大抵の事故なら回避してくれる自動運転車両でさえ躱せない、
<死のサイクリング>
だった。
当然、事故の責任が誰にあるか?ということが徹底的に調べ上げられたが、最終的に、
『AIでさえ回避できないような行為については、運行責任者に責任を問うことはできない』
とされた上、この事故の責任は彼の父親側にあるとして民事訴訟が起こされ、事故によって破損した自動車と搭乗者の怪我の損害賠償については保険が下りるとして棄却されたものの慰謝料の支払いについては認める判決が下された。さりとて、当人はすでに亡くなっているので、薬物に溺れていることを知りながら対処しなかったとして、父親が負った債務の弁済を、母親に対しても改めて裁判が起こされ、これも確定。請求金額のすべてを支払うべきと判決が下った。
母親は当然これに反発。裁判の無効を訴え、さらに、
『不当な差別だ!』
と社会にも訴えたものの、同調した一部の市民がデモなども行ったものの、しかし当時のニューオクラホマ市民の大半の反応は冷ややかで、大きなうねりになるようなことはなかった。
もっとも、いくら裁判で支払い義務が確定しようとも母親自身に弁済能力はなく、判決が下って十数年が経過した今も、一銭たりとて支払われてはいないという。
ただし、運転手側は見舞金も込みの保険が下りたので、実質的に経済的な損失は被っていないが。
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