サイボーグの男、<人間の強さ>を見せつけることを望む

警察用メイトギアは、自身のできる範囲のことを最大限活かして、サイボーグの男に立ち向かった。この種の全身義体のサイボーグは、脳と脊髄と臓器の一部しか残っていない場合がほとんどなので、手足はそれこそただの<凶器>である。


となれば、関節をへし折ったところで『凶器を破壊した』で済むことから、関節を執拗に狙ってくる。人間と違って関節技は効かなくても、どうしても機構的に脆弱になる関節に打撃を加えることで性能の低下を誘発させようとしているのだ。


肘関節にはショートレンジで速度重視の掌打を何度も打ち込み、膝関節には素早いローキックを連打。見た目にはとにかく地味だが、サイボーグの男には、関節部へのダメージが警告として表示される。


すでに関節部の部品には最大四パーセントの変形が見られ、許容範囲を超えているとのメッセージが。


これにより速度が三パーセント低下。動作の精度が八パーセント低下したと表示される。


「うるせえんだよ! とっとと動け! 道具は人間様に従ってりゃいいんだ! この人形に人間様の強さを思い知らせてやれ!!」


などと喚くが、今の自分の体を構成しているのは、目の前にいる警察用メイトギアと同じ技術で作られた<工業製品>である。果たしてそれのどこまでが<人間>だと言えるのか。


サイボーグの体を制御するには人間の脳だけでは不十分なので、補助用のAIが体の各部に組み込まれており、あくまで<脳からの命令>に従って動いている<ロボット>なのだ。


しかしこれについては、<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>の解釈によれは、


『人間がロボットを道具として従わせてる』


とのことであって、問題にはならないらしい。ただ、今、彼が相手をしている警察用のメイトギアさえ、人間の指示に従って、人間が設定した基準に従って、動作しているにすぎない。別にメイトギアに<自由意志>があって人間に攻撃を加えているわけではないのだ。


他者に対して攻撃的な人間は、とかく自身を正当化するために、物事を都合よく解釈するものだ。<人類の夜明け戦線R(リベンジ)>として活動している者達も、所詮は同じ。


<心(のようなもの)>を持つ千堂アリシアでさえ、人間が決めたルールは順守している。その中で、人間の身体生命の保護を最優先にするため、場合によっては触法行為に当たる対応も取れてしまう事例もあるにすぎない。


もっとも、それ自体、データが司法機関に送られて検証され、


<人間の身体生命を守るための正当防衛>


と判断を受けている。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る