侵入者、情報を検索する
ビルのガラスを破って侵入した<何か>は、ビルそのものが発している<情報>を検索するものの、それぞれのフロアに入っていたテナントの情報と、各階のトイレの位置、エレベーターの位置、非常時の避難経路、非常口の位置、緊急通報ボタンの位置、監視カメラの位置、AEDをはじめとした救急用具の位置といった情報しかなかった。
しかも、その<何か>が侵入した部屋はテナントが入っているはずにも拘らず事務机などが放置されているだけで活動の実態がまったく見えず、情報そのものがいつから更新されずにいるのかまったく分からないレベルで古いもののようだ。
基本的には人間などが立ち入れば自動で部屋の灯りが点く物件が、火星の開発当初ですら一般的であったというのに照明も点かない。アウトプットまでは通電している反応があるので、単純に故障しているのだろう。
なお、その部屋にはAEDも備えられているという情報があったが、それが置かれていたであろう棚は空っぽだった。やはり情報が更新されていないのだ。AIによって管理されて自動で情報が更新されるタイプでさえない。
そもそも、管理用のAIにアクセスすらできない。規格が古すぎるようだ。火星開発当初はそれぞれの都市が独自の規格を発展させた時期があり、ここもそういうことなんだろう。本来ならば順次更新されるはずが、住人らの反発もあり遅々として進まないというのは、やはり新京区に近いと思われる。
しかしそれは逆に、侵入者の情報が中にいる人間にも確実に伝わるわけじゃないという意味でもある。窓を破ってもアラームすら鳴らなかった。これは<何か>にとってはむしろ有利に働いた。逃走犯達にとっても身を隠すためのちょうどいい<アジト>だったのかもしれないが、それはそのまま侵入者にとっても都合がいいのだ。
電子ロックさえ故障しているらしいドアをそっと開けて、廊下を確認しても、廊下さえ照明が点いていない。監視カメラも作動していない。完全に<隠れる>という点ばかりを優先して、自分達が侵入されるということにまったく備えていなかった。
四階は照明が点いていて、しかも階段に設置された監視カメラが作動していたので、<何か>は、天井近くの壁を伝って移動する。そのタイプの監視カメラの<死角>についての情報を持っていたので、念のためにそうしたようだ。
一方、逃走犯達は、そのビルの<管理室>を主な居場所にしていたようだ。監視カメラのためのモニターが並んでいるが、そのうちの三割ほどは消えている。カメラが壊れているのかモニターが壊れているのかは分からないが。
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