千堂アリシア、感慨に浸る
「容疑者と直接認識のある、あなたのメイトギアに協力をお願いしたいのです」
とのことだった。
「分かりました。そういうことであれば協力は惜しみません」
千堂もそう快諾し、スケジュールを調整、三日後、アリシアを伴い新京区へと赴くことになった。
その日は彼の休日で、敢えて予定を入れず、自宅で体を休める予定だった。
けれどアリシアはそれについて、
「お忙しい千堂様のせっかくの休日なのに……」
ポツリと呟いてしまう程度には不満げだ。千堂の休養が台無しになることもそうだが、それ以上に、アリシア自身が、彼との時間を奪われるのが不満だったのだろう。
さりとて、他でもない千堂自身がそれを承諾した以上は口出しすることもできず、そのまま自身のスケジュールの更新を行った。ただ、その表情が浮かないものであるのは、他ならぬ千堂には悟られてしまう。
「警察の用件が終われば、羊羹を買いに行こう。付き合ってくれるかな?」
彼に言われ、アリシアは、
「は…はい! もちろんです!」
背筋を伸ばして、大きな声で応えた。
千堂は、こうやって、アリシアの気持ちを酌んでくれる。だから、信頼できる。そして、自分の思い通りにならないこの世に存在することを肯定的に捉えることができるようになる。
彼と一緒に生きていられるだけでいいと思える。
人間ではなく、普通のロボットでもない、歪な存在である自分自身を認めることができるのだ。
そして三日後。
警察の車両が屋敷まで二人を迎えに来た。仮にも
しかも、高級車をベースにした覆面パトカーだった。なるほどこれなら万が一誰かに見られたとしても、警察車両に乗っているとは分からない。
これにより今度は、自動車で新京区へと到着した。これに対してアリシアは、
『確かに楽なんですけど、電車を使った方が楽しいですね』
なんてことを考えてしまう。
今のアリシアには、<道行き>そのものを楽しむという概念が芽生えているのだろう。普通のロボットには有り得ないことだ。
そのような感慨に浸ること自体がそもそもない。
が、<フラワーショップHATA>の近所まで来ると、時間貸しのパーキングへ車両を入れ、そのまま駐車した。
同乗していた刑事がアリシアと千堂に振り返り、
「すいません。ここから先は道が狭く、緊急でないと車両を止めておくこともできないんです。なのでここからは少し歩きになります」
と、申し訳なさそうに伝えてきた。これに対しても千堂は、
「いえいえ、かまいませんよ。私もこの辺りは何度か立ち寄ったことがあるので、事情は分かります」
穏やかに応えたのだった。
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