千堂アリシア、難関を突破する
<ナニーニの匂い>も確かにあったものの、それはあくまで、<残り香>程度のものだった。ナニーニの散歩道なのだから、あって当然である。
だからナニーニの匂いではない。それ以外の、しかし強い印象を持つ<匂い>。
『まさか……?』
とは思ったものの、それ自体があくまで残り香程度のものであったので、データを保存しただけで敢えてそれ以上は詮索しなかった。後で警察にでも届け出ればいいと考えて。
それよりも、今は、ナニーニの捜索が優先される。
コデットは、自身の可愛らしいワンピースが汚れることも構わず、ずんずんと先に進む。それと同時に、辺りにせわしなく視線も送っているので、彼女自身もナニーニの姿を探しているのだろう。
住宅の屋根の上や、塀の上など、人間では通れない場所も、猫にとっては<普段の道>に違いないのだから。
もちろんアリシアも、コデットと共に周囲を探る。ずっと匂いはあるものの、やはり時間が経過しているらしく微かなものだった。
すると、とうとう完全に隙間を塞いでいるものが。中身はよく分からないものの、防水シートで覆われ、コデットでさえすり抜けらるスペースはない。けれど、コデットは躊躇なくそれをよじ登って超えた。彼女が登ってもびくともしなかったので、それなりにしっかりしたものらしいが、ロボットであるアリシアにはそもそも勝手に触れることができない。
さすがにこれにはコデットも、
「探偵さん、大丈夫?」
心配そうに立ち止まった。そんな彼女を一人にしておくわけにはいかない。そこでアリシアは<危機対応モード>を起動。とん、と地面を蹴って、ふわりと宙に舞い上がった。
高さにして二メートルを優に超えたその跳躍に、
「わあ!」
コデットが声を上げる。
そんな彼女の前に軽やかに舞い降りたアリシアに、
「すごいすごい!」
拍手と賞賛が。
「ありがとうございます」
照れくさそうに頭を掻きながらアリシアが応えた。こうして難関も突破し、再びバス通りへ戻ると、すぐ脇に<牛だるま営業中>の立て看板。
居酒屋ではあるものの昼は定食類も出すので、食堂としてもよく利用されているようだ。だから、まだ子供のコデットが入っていっても誰も気にしない。ましてや一見すると保護者にも見えるアリシアが一緒では。
と、従業員らしき若い女性が、
「いらっしゃ…って、なんだ、コデットか」
お客と思って挨拶しようとしたらコデットだったことで途端に営業スマイルから素の表情に変わる。まだ成人したばかりと思しき、髪を真っ赤に染めた気の強そうな女性であった。
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