村人、貴族に従わされている可哀想な平民を憐れむ
村人達は、非常に親切で丁寧にアリシア達を労わってくれた。そうしないと話も聞いてもらえないことを知っているからだ。
だから、いきなり自分達の目的の話をすることはない。とにかく明け方まではゆっくりと休んでもらって、それで出発の準備をしている時に、あくまで世間話的に話すだけだ。
そんなことでどれだけ伝わるのか?と思うかもしれないが、人間というのは親切にされると、つい、相手の話に耳を傾けてしまう傾向がある。
もちろん、全員が全員、そういうわけでもないものの、そのうちの何割かでも多少の関心を持ってくれれば大成功なのだ。
そうして、<ジュゼ=ファート>が本格的に貴族社会を打破するために動き出した時にいくらかでも協力してもらえればというためにしていることである。
決して、相手を軟禁して<洗脳>しようというのではない。
<ジュゼ=ファート>の活動に賛同した者の中にはなるほど、
『相手を洗脳する方が手っ取り早い』
とばかりに強引なことをしてくるのもいたりするものの、少なくともこの村の住人はそこまでではなかった。
ただしそれは、相手が<平民>であればの話。
「お召し物をお預かりします」
恭しく申し出てアリシアの上着を受け取った村人が、
「!?」
ハッとして、一瞬、険しい表情になった。アリシアもそれには気付いたものの、これ自体がこのイベントの根幹をなす騒動のきっかけになるので、敢えて気付いてないふりをした。
するとその村人は、アリシアが寝付いたことを確認すると、そっと家を抜け出して、どこかへと向かった。
それから少しして戻ってきた時には、屈強な男を何人も引き連れていた。しかも、男達の手には、武器にもなりそうな農作業用の道具が。
そしてその目には、明らかな敵意が満ちている。
アリシアがカンダリの村で役人に見せた<勲章>が見えてしまったのだ。彼女が<男爵>の爵位を持つ貴族の一員であることを示すそれが。
相手が<平民>であれば自分達の活動を広めるために大切に扱うものの、<貴族>となれば容赦はない。
さりとて、ナニーニとコデットが寝ている部屋には、向かわなかった。
村人達にとって二人は、
<貴族に従わされている可哀想な平民>
という解釈になるようだ。だから二人を<解放>するためにも、<男爵>を倒そうというのだろう。
しかも、男達の後ろから、頭からフードを被ってまったく顔が見えないという怪しい風体の何者かもが付き従っていた。
寝込みを襲うから村人だけでもなんとかなるとは思いつつ、
<万が一の時の保険>
として連れてきたのだと思われる。
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