ラウル、激昂する

ラウルは、ゴーレムの全てを石礫に変えてアリシア目掛けて放った。


普通ならやはりこれも防ぎ切れるようなものではない。


なのにアリシアは防いで見せたのである。


『バケモノめ!』


とラウルが声を上げてしまったのも無理はないだろう。


バケモノ呼ばわりされてアリシアもいい気はしなかったものの、いつまでも時間は掛けていられないので、


夢魔の囁きヴァ=モス!」


呪文を唱えた。相手を昏倒させる麻痺系の魔術だった。


もっとも、それは、呪文を唱えれば狙いが分かってしまう上に、効果が発動するまでに若干のタイムラグがあるので、よほど迂闊な相手でなければ覚醒系の魔術によって相殺できてしまうようなものでしかない。


ましてやラウルが相手では。


しかし、この時のラウルは、数え切れないほどの魔術を行使してきた上にゴーレムを使役、とどめにそのゴーレム全てを石礫として放つという、常人では考えられない無茶な魔術の使い方をしていたため、アリシアのそれを防げるほどの余力が残っていなかった。


アリシアがラウルに魔術を乱発させた狙いがそこにあったのだ。


「お…のれ……!」


昏倒していきながらも、ラウルはそう口にした。力はなかったものの、激しい感情が込められた、まぎれもない<激昂>だった。


彼にしてみればこれほどの屈辱はなかったのだろう。


だが、アリシアを侮った時点で、彼の敗北は確定したのかもしれない。


本来ならもっと拮抗した戦いになるはずだったのだ。


今のアリシアのレベルであれば、容易に勝てるような相手ではなかった。


にも拘らず、終わってみればほとんどダメージを受けることなくラウルを退けてみせた。


これには、アリシアのプレイをモニターしていた宿角すくすみも唸るしかない。


「さすが、我がJAPAN-2ジャパンセカンド社の屋台骨を支えるメイトギアということか……」


惜しみない賞賛が送られたものの、やはりアリシアは浮かない顔だった。


この後、ゴーディンやラウルが辿るであろう<運命>を思うと、悲しくなってしまうのである。


あくまでVRアトラクション内のキャラクターに過ぎないのだから、実際に人間が粛清されるわけではない。


けれど、人間は、どうしても完全に割り切れる者はまずいない。<感情>を持つからだ。


言ってしまえば<極悪人>であるゴーディンやラウルの身を案じる者はさすがに滅多にいなくても、アリシアは人間に対しては、たとえ凶悪な犯罪者であっても切り捨てるような考え方はできないのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る