ナニーニとコデット、唖然とする
あれほど稽古をしてきたのにそれがまだ全然身に付いていなかったことを確認したアリシアは、自身で男達を退けることにした。
とは言えそれは、コデットの信頼度を上げるのを優先したことでナニーニの稽古については基礎鍛錬がメインとなり、実戦形式の鍛錬が足りてなかったがゆえのことだった。
ちなみに、基本ステータスについてはかなり向上していたものの、その一方で、<気迫>や<見切り>といった実戦向きの<アビリティ>はまだ習得できていない。
<気迫>を習得できれば先程のように『緊張で稽古通りに体が動かない』ということがなくなり、<見切り>を習得すれば相手の攻撃をしっかりと見切ることができるようになる。
単純に基本ステータスをさらに上積みすればアビリティに頼らずともチンピラ程度なら圧倒できるようにもなるのだが、さすがにそこまでの時間はなかった。
取り敢えず、まだ十分に実戦に出せる状態にないことは確認できたので、このままナニーニに任せてゲームオーバーにする必要もない。
まるで瞬間移動のように一瞬で男の前に現れたアリシアは、片手で男の剣を逸らしつつもう片方の手で顔面に掌打を打ち込み、同時に体重が乗っていた方の足を払って転倒させた。
「ぎっ!」
後頭部から石畳の道路に倒れた男は蹴飛ばされた豚のような声を上げて昏倒。すかさず身を翻して剣を突き出してきたもう一人の男の頭に回し蹴りを叩きこんだ。
すると男の体が、その場で綺麗に一回転。そのまま立ち直ることなく路面へと倒れ伏す。
声を上げることさえなく。
まさに、瞬きをする暇もないほどの刹那の出来事だった。
「……」
ナニーニもコデットも唖然としている。
これはあくまでVRアトラクションなので、プレイヤー自身はたとえ素人でもシステム上で底上げされていて今回の敵程度なら圧倒するのだが、アリシアの場合はそこにさらに彼女自身のスキルが再現されたため、ほぼ<戦闘モード>が起動した時のようなとんでもない動きとなってしまった。と言うか、実は戦闘のモーションについては、要人警護仕様のメイトギアの戦闘モードを参考にしているので、当然と言えば当然か。
それにしても、ナニーニやコデットに危険が及ばないようにするために確実に制圧するのが目的だったとはいえ、途轍もなさ過ぎた。
倒れた男達のバイタルを調べ、生きていることを確認したアリシアは、男達が身に付けていた、剣の鞘のベルトやズボンのベルトで手際よく手足を拘束してしまう。
そのあまりの手慣れた様子に、ナニーニもコデットもただ見ているしかできなかった。
「さて、これでもう大丈夫です」
そう言ってアリシアが自分を見たことで、ようやく、ナニーニは我に返ることができた。
と同時に、唇を噛み締め、手にした剣を強く握り締め、ボロボロと涙をこぼし始める。
「アリシア様……私は…私は……っ!」
様々な想いが噴き上がるものの、上手く言葉にすることができなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます