勇者アリシア、力の差を思い知らせる
こうやってまずは<力の差>を思い知らせた。ただし、力の差を思い知らせるにあたって『怒鳴って叩いて』という手法は、彼女には効果が低いことは分かっている。なにしろ彼女は、それこそ赤ん坊の頃から怒鳴られ殴られとして来たのだ。その結果こそが今の彼女なのだから、
『怒鳴って叩けば上手くいく』
という道理がそもそもない。
フィクションなどでは、よく、正義感に溢れた熱血主人公が、道を誤った者を怒鳴って殴って改心させるという話があるが、絵的に見栄えのする『怒鳴って殴って』という部分ばかりがクローズアップされるものの、重要な部分がいつも見落とされている。
それが成功するのは、
『相手による』
ということを。
誰がやっても同じ結果が得られるわけではないということを。
フィクションにおいてでさえ、成功する事例には、大抵、双方の間にある種の<信頼関係>が存在していることが描かれているではないか。
その事実を無視して、
『怒鳴って殴ったから上手くいった』
などと考えるのは、<浅薄>というものではないか?
これについては、すでにメイトギアが記録してきた数百年分のデータから確認されていることだった。
『怒鳴って殴る』という行為が重要なのではなく、その背景にある<信頼関係>が築かれていなければ何も意味がないと。
だからアリシアは、結果を急ぐのではなく、とにかくコデットの表情を、振る舞いを、丁寧に見守った。彼女が何を求め、欲しているのかを探った。
彼女がただお金が欲しいだけなら、それを手に入れる方法には拘らないだろう。アリシアが用意してくれるものをただ黙って手にすればいいはずだ。
けれど彼女は、アリシアを出し抜き金を盗み取ることを望んだ。彼女は、信用できない大人に頼らず、自分の力で生きることを望んでいるのがそこから窺える。
それが何故、<盗み>という行為になるのかと言えば、これは当然、<盗賊>という大人達の中で育ったことと、何より、
『大人の出し抜いてやった』
という<達成感>や<成功体験>を求めてのことだと推測できる。
つまり、彼女の行動原理は、やはり一にも二にも大人に対する不信感に由来しているのだ。
となれば、しなければならないことはおのずと決まってくる。
とはいえ、『信頼を得る』ということがいかに難しいかは、誰もが知るところだろう。
特に、不信感が先に立っている相手から信頼を得るというのは、本当に容易なことではない。
愛想笑いを浮かべて下手に出てすり寄ってこられて、それですぐに信用できるか? 何か裏がある、下心があると、勘繰ってしまわないか?
特にコデットのような大人を信用していない子供なら、なおさらである。
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