千堂アリシア、自宅でもプレイを続ける

主人である千堂京一せんどうけいいちの屋敷に帰った千堂アリシアは、彼女自身が望んで行っている彼の身の回りの世話も終わらせ、リビングで一緒に寛いでいた。


その間も、当然、アリシア2234-HHCを通じて<ORE-TUEEE!>のプレイを続行している。


彼女は、数十機のメイトギアとリンクしそれらを同時に制御することができるメイトギアなので、千堂アリシアとして日常生活を過ごしながらアリシア2234-HHCとしてVRアトラクションをプレイする程度のことは、実に造作もない。


これは人間にはまったく理解できない感覚だろう。同時に複数の視点を持ち、しかもそれぞれ同時に行動するのだ。かつてそれと同じことを人間が行うという実験が行われたが、


『二つの体を持つ』


という時点ですでに精神に変調をきたした兆候が見られたため直ちに中止されたという記録が残されている。


人間には<自我>があり、


『自分は自分。この世に一人しか存在しない』


という認知が非常に強いためか、


『自分が二人いる』


などという状態に耐えられないようだ。


しかしロボットには本来そういう認識がない。アリシアは、自身が、現在、<唯一無二の存在>であるという認識はあるものの、元々備わっている<ロボットとしての機能>についても自身の一部であるということは紛れもない事実なので、


『それはそれ、これはこれ』


と割り切れてしまうのだと見られている。


また、<思考>についてはそれぞれのボディに備えられたAIで行っており、千堂アリシア自身のAIは、<子機>となっている機体からもたらされるデータを統合し処理しているだけというのもある。


ロボットは、複数の体を持っていても、<本体>と<子機>という形で明確に区別しているのだ。だから<複数の視点>についても、


『どのボディが捉えている映像であるのかがはっきりと識別できるので、混乱が生じない』


というのもある。


この辺りもまた、


『人間とロボットの明確な違い』


と言えるだろうか。


いずれにせよ、とにかくアリシアは千堂と寛ぎながらも<ORE-TUEEE!>のプレイは続けているということだ。




で、<ORE-TUEEE!>内でのアリシアは、本編を進めることができないので、この際、コデットの信頼度を一気にあげておこうと考え、<育児シミュレーション>に集中することとした。


ボーマの街での情報収集の間、コデットはアリシアの荷物の中から金をかすめ盗っては勝手に買い物をしていた。


アリシアはそれを気付いていたものの、今の時点ではあまり口煩く言っても逆効果であることは分かっていたのでまずは彼女の行動を確認する。


けれど、コデットは盗んだ金でただ買い食いをしていただけだった。おそらく、彼女がこれまで食べたくても食べられなかったものを。


アリシアは察する。


『たとえ、<盗み>という形ではあっても、『自分の力で手に入れたお金で』っていうのが必要だったんでしょうね……』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る