盗賊の少女、勇者アリシアを値踏みする
『あなたを飼います』
現在の社会でそんなことを口にすればそれこそ批難の嵐であろうが、幼い頃から家畜と変わらない境遇で生きてきた少女には、むしろその方が分かりやすかった。
決して同情や得体のしれない<善意>ではない、『食事と寝床を提供する代わりに働け』という提案は、少女にとっても十分に<利>が理解できる話である。
だから少女は、値踏みするようにアリシアを見た。
『こいつ、いい身なりしてるよな……まあ、金はありそうだ……』
幼いながらもしっかりとした<打算>で判断する。
「分かった。あんたに飼われてやんよ」
<飼われる立場>に不釣り合いな尊大な態度で少女はアリシアの提案を呑んだ。それから拘束されて地面に並べられている盗賊仲間に目をやり、
「どうせこいつらは縛り首だからな。あたしが大きくなったら娼館に売り飛ばすつもりだったみたいだし。いい機会だ」
やはり子供とは思えないふてぶてしさを見せる。
しかし、ナニーニは、
「いいですか? アリシア様。こいつ、絶対、なんか悪さしますよ」
不満気に声を掛ける。すると少女は、
「あ? おめーは何だよ? こいつの召使いか?」
どこまでも不遜な態度でナニーニを睨み付ける。
「なんだとこのガキ! 私はアリシア様の弟子だ!! 召使いじゃない!!」
体は大きいものの、明らかに少女よりもあどけなさを感じさせる様子で応じた。
ナニーニは、女性でありながら『剣士になりたい』などと珍しい夢を抱いていて、実際にそれなりの才能を秘めている以外は、<始まりの村>で平凡に暮らしてきただけの凡庸な村娘だった。贅沢こそできなかったものの酷く飢えることもなく、何日も野宿で過ごすような経験もない、<普通>の範疇を大きく逸脱はしない人生を送ってきた。
だから、苛烈な過去を持つであろう少女に比べれば、なるほど語るべき背景もない。
良くも悪くも平凡なキャラクターである。
正直、目立ったセールスポイントがないことが災いして人気もあまり高くないようだ。
というのも余談なので脇に置き、
「大丈夫だよ。ちゃんとメリットを提示できればこの子は合理的な判断ができる」
ここまでの様子だけでもアリシアには少女の人間性が見えていた。実際、設定上もそういうキャラクターである。
<主人公>の所持金の一部をかすめ盗ったりはするものの、しかしその分の働きはしてみせる、優秀なパーティメンバーの一人となっていくのが、この少女だった。
彼女の<スティール>は実に強力な能力で、さくさく話が進むくらいだ。
「私はアリシア。あなたの名前は?」
「コデット……」
こうして、盗賊の少女<コデット>が、仲間に加わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます