宿角領閣、アリシア2234-HHCを出迎える

忌憚のない意見として述べるなら、VR班の売り上げ自体はJAPAN-2ジャパンセカンド全体から見れば僅か0.1パーセント未満と、実に微々たるものだった。はっきり言えば、<クイーンオブマーズ号事件>をきっかけに大きく売り上げを伸ばしたアリシアシリーズのそれで賄えてしまえる程度のものでしかない。


市場全体の規模からみれば、それが現実なのだ。


いくらユーザー達が、


『自分達こそが世界を動かしている! 影響を与えている!!』


的に大きな声を上げようとも、現実はその程度でしかない。


とは言え、<総合企業体>であるJAPAN-2ジャパンセカンドにとってそれぞれの<部署>や<課>は、ある意味では独立した一個の企業のような存在であり、全体の売り上げから見れば微々たるものであっても決して蔑ろにはできないという事情もある。一部を軽んじればそれはやがて全体の弱体化に繋がることは自明の理なのだ。


しかしその一方で、唯一無二の存在である<千堂アリシア>を派遣するにはリスクが高すぎる。


そこで千堂京一せんどうけいいちは、魔鱗マリン2341-DSE(実験機)を運用した際のそれと同様に、アリシア2234-HHC(ホームヘルパーキューティ)を介してアリシアを派遣することにしたという意味もある。


「本日はよろしくお願いします」


「おお、君が千堂アリシアくんか! 噂は聞いているよ! こちらこそよろしく頼む」


エンターテイメント部門の役員、宿角すくすみ領閣りょうかくに出迎えられ、がっしりと握手を交わす。


宿角すくすみもアリシア自身がこられないことは理解しており、今の彼女の体はアリシア2234-HHC(ホームヘルパーキューティ)であることを承知しているが、今回は要人警護仕様機としてのパワーが必要なわけではないので、特に問題なかった。


オフィスそのものはこれといってメイトギア課のそれと違いがあるわけではないので、アリシアも特に戸惑うことなく馴染む。


その上で、宿角すくすみに案内されて入った部屋は、


<VRアトラクション用フルダイブユニット>


が置かれたそれだった。


一見すると<酸素カプセル>や<日焼けマシン>と呼ばれるものに似たカプセル状の装置である。と言うか、メイトギアであれば<メンテナンスカプセル>や<急速充電器>の方が馴染みがあるだろう。


待機していたスタッフらが、フルダイブ用の端末を、今は千堂アリシアでもあるので標準状態のメイド服を模した外装パーツのスカート部分は外されてスーツを着ているアリシア2234-HHCに装着していく。


彼女はメイトギアなので本来はVRアトラクションになどアクセスすることはないのだが、今回は彼女の力を借りることになるので、人間用のそれを使ってアクセスするしかなかったのだった。


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