ったく、心臓に悪いぜ……

「それでは、確実に回収をお願いします」


今回のミッションの責任者であるネルディがモニターを覗き込んでそう告げる。


「最善を尽くします」


千堂は淡々とそう応えた。


と言っても、彼はあくまでアリシアの代わりとして、JAPAN-2ジャパンセカンド社側の正式な担当者として応えただけで、実際に努力するのはアリシアなのだが。


ただ、メイトギアであり法律上の責任を負うことができない彼女の代わりに千堂が全責任を負うことになるだけである。


だからアリシアとしては、千堂に迷惑を掛けたくないから最新の注意を払って慎重に近付いた。


だが、あと一メートルほどまで近付いたところで、


「あ…っ!」


千堂の端末と同調した作業場のモニターを見ていた者達が揃って声を上げる。


<遺体>がガクンと動き、転がり出したのだ。


「マズイ…っ!」


千堂も思わず声を上げるものの、ここからではどうすることもできない。


が、数十センチ動いたところで漁礁に引っかかり、止まる。


「ほお……」


その場にいた者達全員が胸を撫で下ろした。


「ったく、心臓に悪いぜ……」


ディミトリスが忌々しげに呟いた。


『確かに…』


千堂も口には出さないものの心の中で相槌を打った。


とは言え、泣き言を口にしてても始まらない。せっかく近付いたのにまた引き離されてしまった分を、アリシアはとにかく詰める。


しかし、魔鱗マリン2341-DSE(実験機)が体を支えるために漁礁に指を掛けようとした瞬間、モニターに警告が表示された。機体に衝撃が加わり、破損したのだ。


「!?」


見ると、映像の中の魔鱗マリン2341-DSE(実験機)の人差し指に違和感が。


「石が当たって折れたのか……!」


千堂が苦々しく口にした通りだった。またも流されてきた石が今度は漁礁にかかろうとしてた魔鱗マリン2341-DSE(実験機)の右人差し指を捉えて、折ってしまったらしい。


要人警護仕様機であればこの程度で指が折れたりはしない。しかし一般仕様機がベースになっている魔鱗マリン2341-DSE(実験機)では、拳銃の弾丸にも等しい威力を持った石の直撃には耐えられなかったのだ。


「補正可能範囲内です。問題ありません」


アリシアは冷静にそう告げる。


とは言え、その映像を見ている人間にとっては、生身の女性にしか見えない魔鱗マリン2341-DSE(実験機)の指が折れている光景は、決して気分のいいものではなかった。どうしても傷みを想像してしまうからだろう。


いくらロボットは痛みを感じないと言っても、人間はついついそれを想像してしまうのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る