ジョン・牧紫栗、復讐を目論む

ロボットには<心>がないのだから、当然、<本心>もなければ<下心>もない。だからある意味では<純粋>であろう。


それをどう捉えるかは受け取る側次第だろうが。


しかし、それでも他人を蔑むだけの人間に比べればまだマシなのかもしれない。


加えて、ロボットは、自分が人間の引き立て役になったところでそのことを僻んだり恨んだりもしない。むしろ人間の役に立てるのは好ましいことだと純粋に考えることができる。


だが、人間の感情というのはそんな単純なものじゃないだろう。自分が他人の引き立て役にされたと感じるとひどく感情的になる人間もいる。<舞台装置>という言葉にむやみに拘る者は、自分が他人の引き立て役として舞台装置にされることを強く忌避しているのかもしれない。


少なくとも、ジョン・牧紫栗まきしぐりはそういうタイプの人間だった。自分が他人の引き立て役にされることをひどく嫌う。


自分から<悪役>になりに行きつつも、自分こそが主役でないと気が済まないタイプということなのだろう。


実に始末に負えない。


こうしてジョン・牧紫栗は釈放されて家に帰るとすぐ、ネットで報復の手段を調べ始めた。


ネットワーク上には、<復讐請負サイト>なるものも存在していた。基本的にはほとんどが、


『偽の注文で、代引きで卑猥な商品を送りつける』


などの非常にくだらない嫌がらせレベルの真似をするだけのものでしかなかったが、中には本当に危害を加えることを謳っているものもあり、真偽のほどはともかく非常に不穏な気配を放っていることは事実だった。


その中でも牧紫栗は、復讐の対象を女性に絞った復讐サイトと、ハッキングによりロボットを破壊することを主軸に置いた復讐サイトの双方に、それぞれ、エリナ・バーンズと、彼女を守ったメイトギアに対しての復讐を依頼した。


なお、ロボットに対するハッキングは、ネットワーク上からは不可能な仕組みになっている。以前にも触れたとおり、メイトギアやレイバーギア等、一定以上の戦闘力や影響力を持つロボットはスタンドアロン方式で、ネットワーク上からのアクセスはできない仕組みになっている。


それでいてネットワークにも接続できるようになっているのは、非常に乱暴に端的に説明すると、


『人間が端末を使ってネットワークにアクセスしている』


のと同じと言えばいいだろうか。


ネットワークに接続している部分は、ロボットの<本体>とも言うべきAIのメインフレームには物理的に接続されておらず、ある種、ネットワーク上のデータを『視覚的に』参照している形なのである。もちろん人間よりはごく短時間で大量のデータを参照できるのだが。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る