大木戸桜子、千堂アリシアを呼び止める
アリシアシリーズの形式名称について追記すると、<機体サイズ>というのは、
『1』が全高160センチ未満。
『2』が全高160センチから170センチ未満。
『3』が全高170センチ以上。
という区分になっている。
もっとも、『2』以外のサイズについてはあまり一般的ではなく、そこに当てはまる機体のほとんどは受注生産のものや、特殊な用途に使われるメイトギアだった。なので、アリシアが開発に携わることになるものであれば、そういう機体も出てくるだろう。
一方、当のアリシアと言えば、
「何かお手伝いできることはありませんか?」
と声を掛けて回り、そこで申し付けられた、コピー取りやお茶汲みや荷物運びや掃除や資料の整理といった雑用を、嬉々としてこなしていた。
それを嬉しいと感じる辺り、彼女がロボットであることの証左かもしれない。
が、そんな彼女の働き振りを見ていたメイトギア課課長<
「千堂さん、ちょっとちょっと…!」
と呼び寄せた。
「はい、どのようなご用件でしょう? どんなことでも承ります!」
アリシアは何か仕事を申し付けてもらえるものと思い、意気揚々と駆け付けた。しかし、そんな彼女に対して大木戸は、穏やかな表情は崩さずに、
「積極的に仕事を見付けようとする姿勢は大変立派なんだけど、雑用というのも、ある程度まではそれぞれの職員がここで受け持つべきことなんだ。何でもかんでも人任せにするというのは、結果として本人の幅を狭めることになるからね。
だから、明らかに困っているようであれば力になってあげてほしいんだけど、わざわざ千堂さんの方から出向いてまでっていうのは必要ないんだよ」
と、やんわりと注意されてしまった。
これは、雑用だけに忙殺されてしまっては意味がないものの、かといって一つの仕事だけに専心するあまり柔軟性を失ってしまっては個人の能力が伸び悩む可能性があるということを考慮した、
「あ…そ、そうでした……!」
社員をサポートするために配置されているメイトギアであればその辺りも承知しているのが、自身のメインフレーム内に大量に偏在する断片化ファイルの影響で人間のように『うっかりする』ことのあるアリシアは、それを失念していたのだ。
言われてみればこのオフィスにも、女性型男性型問わず何体ものメイトギアが配されている。そのメイトギアが手出ししなかったのだから、本来は必要のない手助けなのである。
「ごめんなさい……」
余計なことをしてしまったとしょげ返るアリシアに、大木戸は、
「いいのよ。人間だってそうやって経験を積んで一人前になっていくんだから。千堂さんもこれにめげずに頑張ってね」
と微笑みかけたのだった。
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