クグリ、メイトギアを蹂躙する
タラントゥリバヤが隠れていた死角から、何かがアリシア2234-HHCの方に向かって投げられた。それが手榴弾であることを察知したフィーナQ3が、超振動ワイヤーを伸ばし空中で切り刻んだ。するとその場で爆発し、金属片が周囲に降り注ぐ。
要人警護仕様のフィーナQ3とフローリアM9にとっては何ともなく、金属片の殆どはその二機が受けとめてくれたが、標準仕様のアリシア2234-HHCは破片の一部を浴び、損傷した。右目を失い、顔も傷だらけになった。それとほぼ同時に、タラントゥリバヤが死角から飛び出し、自動小銃をフルオートで乱射。フィーナQ3とフローリアM9が盾になるものの、それでも全てが受けとめきれるわけではなかった。銃弾の一部がアリシア2234-HHCを襲う。
フローリアM9が手にしていたナイフを投擲。出来れば生かしたまま確保せよという命令だったので、足を狙った。それは見事にタラントゥリバヤの右太腿を捉えたが、彼女はそれでも倒れたりせずに階段へと駆け込んだ。その直後、フィーナQ3とフローリアM9が機能を停止する。非常停止信号も使っていたのだろう。それが届く範囲に入った瞬間に停止してしまったのだ。
「救急救命モード!」
センサーで既に上の第三デッキの方へタラントゥリバヤが移動したことを察知していたフィーナQ3とフローリアM9の情報を得、肥土は第三デッキと、さらに第四デッキにも警戒するように通達した。
新藤達の任務は第二デッキ左通路の客室の索敵であった為、千堂アリシアは他の客室の確認を終えたメイトギアの一部を応援に回し、階段を封鎖しつつ残りの客室を索敵。
第三デッキの左通路を索敵中だった班は、タラントゥリバヤが現れることを警戒したが、そちらには現れる様子がなかった。こちらはレイチェル03CというメイトギアとフィーナQ2がそれぞれ要人警護仕様だった為に配備されていた。次々客室を確認していくが、やはり生存者もおらず、しかもメイトギアも徹底的に破壊されていることを確認。タラントゥリバヤの仕業と思われた。
となると、第四デッキに上がったということだろう。第五デッキに出る扉は閉ざされ、しかも溶接されていた。ロボットを使って強引に開けることも考えられたが、爆弾等が仕掛けられている可能性もあった上にもし抑えきれずにさらに上の階に上がられれば避難している乗客の真ん中に出てこられることになる為、そこは敢えて開けないようにする。また、展望デッキに出る扉は、テロリストが上がってこないようにと船の側で溶接し封鎖していた。
加えて、第四デッキ左通路はテロリストの人数が多く、最も抵抗が激しかった為、まだ制圧には至っていなかった。第四デッキ右通路を制圧した班が索敵を終了し、他の班と動きを合わせてテロリストを挟み撃ちにするべく待機。
だがその時、第四デッキ左通路の客室のドアが開き、男が一人、
肥土はすぐさま隊員達を後退させた。代わりに千堂アリシアがメイトギアを向かわせる。その場に残ったフィーナQ2のセンサーから得られたバイタルサインを照合した結果、それはクグリである可能性が高いと判断された。
すると、フィーナQ2達はクグリが接近してくるのを感知。構えるフィーナQ2だったが、その場にいた他の標準仕様のメイトギアと一緒に、機能を停止してしまったのだった。非常停止信号だ。
「やれやれ、よくもまあガラクタ人形ばっかり集めやがったな」
フィーナQ2達の前に姿を現したクグリががっかりした様子で自動小銃を構え、乱射した。標準仕様のメイトギアはそれによって次々と破壊されていく。残った要人警護仕様は、ハンドカノンで破壊された。勝負にならなかった。この調子では何機メイトギアを投入しても返り討ちにあうだけだ。
しかしそれにしても、左通路では今もクグリの部下のテロリストと、肥土の部下との激しい戦闘が続いている。当然、流れ弾も飛び交っている。なのにクグリはそれを意に介する様子もなく、悠然と廊下を歩いて移動した。
再び客室の一つに戻り、そこに置かれてあったバッグを開け、中から何かを取り出した。ロケットランチャーだった。それを持って部屋を出て、戦闘が行われている方に向けた。
「お前らもういらねぇや。後は俺だけでやる」
そう呟いた後、躊躇せず引き金を引いた。ロケットが狭い通路を凄まじい速度で奔り、肥土の部下達に迫る。だが、こんなところでそんなものを使えば自分の部下も巻き添えになる可能性がある。だがクグリが言った通り、もう彼には必要なかったのだ。
概ね舞台は整った。これからは彼の独壇場ということだ。
この班に編入されていた要人警護用のフィーナQ2二機が、ロケットの前に立ちはだかる。人間を、肥土の部下達を守る為だった。
一機が両手を突き出して、ロケットを受け止める仕草をした。その瞬間、とてつもない爆発音と衝撃波が左通路全体を襲う。耳を覆い頭を伏せた肥土の部下の前に、両腕を失ったフィーナQ2が転がってきた。もう一機のフィーナQ2も、衝撃で壁に叩き付けられ、動かなくなった。恐らく関節部分が破損したのだろう。
肥土の部下達は、衝撃波で耳をやられたものの、命に別状はなかった。だが戦闘を続けられる状態にはなかった。辛うじて破損を免れたメイトギアに支えられ、後退する。それと入れ代わるように千堂アリシアが向かわせたメイトギアがクグリの前に立ちはだかり、さらに駆け付けたメイトギアが爆発に巻き込まれたクグリの部下達を救出し、連れ出した。全員が爆風と破片と衝撃波で重傷だった。心停止している者もいる。
メイトギア達がそれを引きずるように連れていく様子を、クグリはニヤニヤと笑いながら見ていた。そして再度、ロケットランチャーを構えた。だが、引き金を引こうとしたその時、クグリの体が反応した。ロケットランチャーを放り出して飛び退くと同時に外側の壁に無数の穴が開き、そこから飛び込んできた銃弾がロケットランチャーを捉え、弾頭が爆発。
CSK-305だった。CSK-305が、外からチェーンガンを斉射したのだ。複数のメイトギアのカメラにより位置を計測、それと連携してCSK-305が攻撃したのである。
今回の戦闘は戦争ではないので、本来は、完全に殺害を目的に攻撃することは許されていない。あくまで人命を尊重し、被害の拡大を防止する為に止むを得ない最小限の実力行使にとどめると規定されている。もちろん、肥土は優秀な軍人であるから規定は守る。だが、相手がクグリとなれば、これでも最小限の実力行使と言えるとの判断だった。とは言え、始末書の山で済めばいい方だろう。下手をすれば犯罪行為として裁判にかけられる可能性もある。肥土はそれを覚悟の上で、部下や乗客や乗員達の命を守る為に必要なものとして実行したのだった。
もっともそれも、狙ったところに確実に銃撃を行えるCSK-305の信頼性があればこそのものでもある。脚のフックとワイヤーで船体の横に垂直に立った状態にしても角度的に狙撃出来るギリギリの位置だった。万が一狙いが外れ、乗客らに被害が出れば、『下手をすれば裁判』どころでは済まなかったのだから。
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