兵隊の手は白い

冬の針葉樹林の中を兵隊は行く。ここの樹海の向こうの国と戦争をしているのだ。この樹海はどちらの所有物かでもめて、遂にこんな所にまで発展してしまった。兵隊のアンサレムは被害者の一人だった。




 彼は西の国バルサレの農業で生計を経てる若者だった。争いとは程遠い村に住む彼は性格が優しい。そんな村にもやはり徴兵令はやって来たのだ。生まれて、重たいもの等は杭を打ち付けるハンマーくらいだった彼は、迷彩服とハンマーよりも重い鉄の機関銃を持たされたのだ。




 『我が国はこれから戦争をする!諸君には母国の兵となり、繁栄を築いてもらうべく、是非協力をしてもらいたい!状況は悪いことに押されている。これから四日でお前達を鍛え上げる!後はおまえらの気力で生き延びろ!』アンサレムは母親や、村の人にさよならを言わないで来てしまったと後悔した。自分のこれまでの人生から、人を殺さなきゃ生き延びれない世界では生きていけないと絶望したのだ。




 今、アンサレムは枯れ葉の音をなるべく出さないように森の奥へと足を運ぶ。木々の隙間を潜って、遠くから銃声が聞こえた。『後ろの方からだ…攻められてるのか?それとも…自殺か…。』そうは思ったものの、彼は足を前へ運んだ。




 四日の間に色んな死をみた。徴兵されて大佐が激励を飛ばした時に、都会の若者が反発して頭を撃ち抜かれた。それが最初に見た死だ。途中で怖くなって、逃げ出した同じ部屋の二人は一人、高圧電流に触れて死んだ。もう一人は『国を裏切った』と言われて、時には仲間を犠牲にしなければならないと言う射撃の的になった。アンサレムはそこで初めて人を殺した。そして、今日に日付が変わって間もない夜に、隣部屋の中年男性が頭を撃ち抜いて死んだ。逃げ道はここしか無いと気付かされた。




 自身が踏んだ木の枝に驚いて、木影に身を隠す自分がいた。呆れに近い安心した深い溜息をした。木にもたれかかり、空を見た。空は無情だ、昨日の夜を永遠にしてほしかった。太陽は、人の様子がみたくてしょうがないから雲が一つも無い空だ。




森と言うよりも、死期を彷徨っている感じがした。暫く進むと森をぬけ、ある家に着いた。付近で戦争が起きてるなんて知らないようだった。アンサレムは尋ねてみたかった、尋ねることは無かった。人を殺したその手は、土や血痕がなくとも汚れてしまってる。アンサレムはただ、遠くからその家を見ているだけだった。

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