モルヒネの飼い方

 退屈で仕方がなかった。私はお酒を飲んでヘラヘラしていても、何にも面白みが無いことに気が付いて、アルコールは哀愁に変わるだけだった。19歳学生、人生は長いがもう既に飽き飽きしていた。一日は、変哲も無い歩みをしている。駅では会社員が取引先と早速電話で会話をしていて、高校生は同級生と会話をしている。学校の教室に行けば、お馴染みのクラスメートが居て、ゲームやファッションの話しで毎日話しは変われど、カテゴリからは決して動かなかった。私に何か違うことを出来るかと言ったらそれは無理で、私はこの先予想されてる99%の地震を期待してる数少ない人間なのだ。




 皆がそれに満足しているのか、その本心は分からないけど、私には皆が退屈そうに見えない。私には適応力って言葉が無いことに気が付いた。未来は楽しいことばかりだそうだ。一日は錯覚で早く進むけど、その歩きは実に遅い。可能性の枝分かれは蟻の私にはまだ頂上にある。私の趣味もやりつくした様な感じだ。聴いたことは無いけど、ジャンルとして聴いたことのある音楽を私は聴きながら家に帰り、眠る。毎日早くなるように早く眠る。




 今日は休日、出掛ける要素も無いけれど私は商店街に足を運んだ。追い抜いてく人、追い抜かれてく人、過ぎ去る人。一人一人の顔を的にする様に見ていた。時々用もなく店内に入り、辺りを見て回ったけど、目的の無い私には無駄だった。人気のない裏路地に入る。壁が圧迫させてるのに不思議と落ち着いた。裏路地をひたすら真っすぐ歩いてると、紫のネオンが輝いてるお店を見つけた。人一人分の幅だから、上に名前が書いてるのだけど、上手く読めない。少し久しぶり不安を感じたけど、それが嬉しくて私は店内に入った。




 店内は大きな、電気が一つだけ照らしていたけど、部屋を照らしきっていなくて、沢山の水槽の明かりが薄く足元を照らしていた。すると、部屋の置くから店長らしき人がやって来た。




『あら、こんなところにわざわざ、いらっしゃい』

この店長はオネエ口調だった。

『偶然見かけて入りました。』

『あら、そうなの?まぁ、ここは目立つところに建ってないからしょうがないわね』

ちょっとタバコ臭さに私は顔を歪ませた。

『ここはどんな店なんですか?ペット…ショップ?』

『そうよ。魚専門のペットショップ。でも、心理深層から釣り上げた珍しい魚よ。』

心理深層…容姿の他にもおかしいみたい。私は店を出ようとしたら腕を捕まれた。

『ルーツは言えないけど、本当よ。あなた、毎日に退屈してない?』

『はい…。』

『その顔、無表情と言うよりは退屈に見えたのよ。まるで、魚みたい。』

『魚は、無表情と言うよりは退屈な顔をしてるんですか?』

『店にはあまり飼いたがる人が来ないからそうなのよ。オススメの魚があるの。あなたにも、魚にも都合が良いわ。』




 私は店内の奥に連れていかれた。思ってるより、中は広いのだなぁと思った。そしてある水槽の前で足が止まった。紫に灰色を混ぜた色の鱗をしていて、眼の周りは金色だった。こんな、魚は見たことが無かった。




 『この魚は…』

『んふ、モルヒネって言うのよ。』

『モルヒネって麻薬じゃ…。』

『心理深層の刺激から釣り上げたの。』

『刺激のわりには、他の魚よりも泳がないで止まってますけど。』

『この魚自体には刺激がないの。』

『よく、分からなくなって来たんですけど…』

『そもそも、心理深層から釣り上げた事事態がおかしな話しだから、仕方ないでしょうね。この魚は退屈やくらい感情を餌にするのよ。』

『…』

『だから、今のあなたにはお似合いなのよ。毎日、呟くだけでそんな感情は無くなるんだから。』

『本当ですか…?』

『本当よ。餌やりは禁止だけど、試しに吐いてご覧なさい』

私はこの頃の退屈な毎日をモルヒネに愚痴った。すると、さっきまで動かなかったモルヒネは生き生きと泳ぎだしていて、私も気のせいか、気分がすっきりしていた。




 『どう凄いでしょ?』

店長は薄く笑いながら言った。

『はい…信じられないけど、気分が晴れました。』

『そう、最初は一万円だけど本当の麻薬売買みたいに高くしていくシステムなんだけど、買う?』

『どうして、そんなシステムなんですか?』

『この魚はこの商売では貴重なのよ。現代社会では、刺激なんて少ないから買い求める人が多いのよ。でも、モルヒネが死んでまた買うときに同じ値段だった損じゃない。だから、ドンドンとモルヒネに魅了されてドンドンと高くしていくの。あら…買う気がなくなったかしら?』




 私は金づるってわけか…でも、欲しい。

『あの!おいくらですか!?』

『あなたは、可愛いから千円からで良いわよ。ただ、説明書にも書いてあるんだけど、生活に満足してしまったら駄目よ。モルヒネがいるからなんて安心して家に帰ってきたら、餌なんて残ってないんだから。まぁ、そうやって餓死させても飼いたがる人がいるから特はするんだけど、モルヒネちゃんが可哀相だから。』

『多分大丈夫です…今、食べてもらったから気分晴れてますけど。』

『そう、じゃあ。住所と空いてる日を教えて。その日に届けるから。説明書は先に持って行きなさい。よく知ってないと飼うときに大変だから。』




 私は千円払って店を出た。次は五千円らしい。私には長く飼える見込みがあるからだそうだ。長く居たみたいで、外は夕方だった。今日も一日が終わろうとしている。後は眠って、また退屈な日常に期待するのだった。

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