春月時3・4・5

♯春


目覚めるのは

毒を盛るのと同じ

犯行なんだよ


春による犯行


顔を出すけど

私達は成す術も無く

ただ 眼に移り変わりを

映すだけなのだ





♯春一番


今 今年一番の強い風が来た

全てに呼吸をさせるその風は

収獲へと道を歩ませる

私は同時に削ぎ落とされた

絆を懐かしみながら

大都会の真ん中

それを感じた

まだ寒いが

陽射しは泡に化け包み込む





♯ひな祭り


明りを雪洞に付けた

それは古くなった私の行為である

閉まった押し入れを開ければ

そこには無くて

尋ねれば親戚の若い娘の家

この日ばかりは和服を来て

悪い行いを無き事に親切にされたものだ


なのに花粉症に悩まされる日だと

愚痴を零していた

いつから私は

あの頃の無邪気を無くしたのだろう

語りかけても

古くなった私は笑顔のままだった





♯345


ワルツは逆再生


逆流する人込みを歩く


蠢く春に


木々は緑で返事を返す





♯桃


花びらが桃の色に

染まりあがったら

寄り添おう


ふざけた青春を

演じきっている僕らは

少しばかり嘘つきさ


強がりはいつか

その人を潰してしまうよ

笑い飛ばせる時が今

噛むと広がる甘味に隠れてる


飾りを付けたよ

季節に合いそうな鴬の


忙しく回っている

鳥達は陽気さを見せつけた


人は知ればきっと

恥じる事は無くなるだろう

小さな幸せは

ところに色付き実っている事


時が来ればきっと

明かせられるだろう

台本にかかれて無い台詞を

そして春の目覚めの意味を知る





♯さくらんぼ


二人繋げばさくらんぼ

寄り添う事無い太陽と月は

同じ空から恋人達の姿を

羨ましくみているのだ

火星のテレパシーは電波ジャックされている


生物は皆繋げばさくらんぼ

静物は繋げば物音を立てる


互いに噛み合って

種になったら

土に潜って

木になりたいのさ





♯嘘の日


小さな嘘をつかれた

「不幸にはしない。僕はピノキオ。不幸にした時、僕の鼻は伸びるだろう。」


私は言うのである

「あなたは、それを果たし人間になるでしょう。しかし、それは私では無いのです。」


彼は言葉を出せず

もがく様だった

この人は人間になるだろうと感じた

待ち合わせの喫茶店での話





♯皐月melancholy


素敵な川に飛び込めば

下流の汚水へと流されてく

初めて身に着けたスーツも

鏡で整える度

嫌気がさす

独り揺られる電車の窓から

学生がみえる笑顔の

今は遠過ぎて

永遠なんて言葉なんか昔は信じてたけど

分かれ道は無くて実は混らぬ直線だった

同じ月をみてるか

盗んでしまいたいのさ

余りに綺麗な時代と重なるから

その頃の私達は知らずに先を見つめていた





♯さくら日和


雪は溶けて

花になるだろ

季節なんてそんなもんさ


日が経ちゃ

大人なってしまうんだろ

描いた憧れは小学に散った


坂をなぞる様に生えた

桜道

美しくないねと涙ぐむ

暫くはさくら日和

私を悩ませる


さよならを

言わないでいれば

会える気がしていた

さよならを

しなきゃいけないのに

残されている進む現在に


毎晩お邪魔して馬鹿してた

花見なんて

酒がありゃ無くてもできるだろ


二日酔いになって

寝込めば

逃避する自分に虚しさを感じた


日付が分からなくなるくらい

夜を越え朝を迎え気付く事があって

髪を染めて鏡を見た

変わる事へ恐怖した私が

その時まで居なかった事に


さよなら

さようなら

私は哀しくも受け入れて対応していた

さくら日和

さよならはまだ

言わないでさせないで欲しかった


溜め息をつけばいつの間にか老いて

さくら日和を数えるんだろ

余りにも長過ぎた一期一会に

巡り逢う事に怯えていた


桜舞う 散る 散る

桜舞い 散る 今日

桜舞う 散る 散る

散り春風掴んで上昇する


冬が一番嫌いなのは

寒いのが嫌いな他に

春がやってくるからさ

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